HDPE(高密度ポリエチレン)とは?特性・加工・設計上の留意点
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HDPE(高密度ポリエチレン)は軽量でありながら高い強度と耐薬品性を兼ね備えた熱可塑性樹脂であり、包装資材からインフラ、医療、自動車分野まで幅広く活用されている汎用樹脂の代表格です。
結晶性の高い分子構造により優れた機械特性を示し、成形のしやすさやコスト効率の良さから、多くの製品設計者に選ばれています。一方で、紫外線劣化や接着の難しさなど、材料特性に基づいた設計上の工夫も求められます。
本記事では、HDPE(高密度ポリエチレン)の物性・加工性・環境特性に加え、他材質との比較や実務に役立つ設計上の留意点について、英語の信頼性の高い情報をもとに体系的に解説します。
HDPE(高密度ポリエチレン)とは?

HDPE(高密度ポリエチレン)は、エチレン(C₂H₄)をモノマーとする熱可塑性のポリオレフィン樹脂です。その分子構造上の最大の特徴は、側鎖(枝分かれ)の少ない線状の高分子である点です。
分子鎖に分岐がほとんどないため、ポリエチレン鎖同士が密に結合して結晶化度が高く(90%)、材料の比重も0.94~0.96程度と他のポリエチレンより高くなります。この高い結晶性ゆえに高密度かつ剛直な性質を示し、強度や耐熱性が向上しています。
HDPE(高密度ポリエチレン)は同じポリエチレンでも、低密度ポリエチレン(LDPE)より枝分かれが少なく「直鎖状ポリエチレン」とも呼ばれます。そのため分子同士の引力が強く、LDPEより引張強度が高くなっています(HDPE(高密度ポリエチレン)の引張強さは約23~31 MPaで、LDPEの約8~31 MPaより大きい)。
HDPE(高密度ポリエチレン)の製造には、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒などの触媒重合が用いられ、この重合条件によって分岐の少ない直鎖構造が実現されています。こうした製造プロセスにより、HDPE(高密度ポリエチレン)は高結晶で高い密度と強度を備えた樹脂となります。
まとめ
HDPE(高密度ポリエチレン)は、枝分かれの少ない直鎖状構造を持つポリオレフィン樹脂です。高結晶化により高密度・高強度・良好な耐熱性を発揮し、触媒重合によって安定して生産される材質です。
軽量でありながら高い強度と耐薬品性を兼ね備えた樹脂
HDPE(高密度ポリエチレン)は結晶性のポリエチレンであり、「軽くて強く、薬品や水に強いが、高温と直射日光には注意」という物性上の特徴を持っています。
この章では、HDPE(高密度ポリエチレン)の主要な利点ついて、技術的根拠や具体的データ・事例を交えつつ解説します。
強度・靭性|大きな応力がかかる用途でも変形しにくい
HDPE(高密度ポリエチレン)は高い引張強度と優れた耐衝撃性を備え、大きな応力がかかる用途でも変形しにくい頑強な材質です。低密度PE(LDPE)より硬く剛性が高く、引張強度にも優れています。そのため、重量物用コンテナやパイプなどにも使われます。
一方で、同じポリオレフィンのPPと比較するとやや柔軟で、剛性・強度は僅かに劣ります。ただし、酸・アルカリは両者とも強いです。炭化水素系溶剤や界面活性剤下では挙動が異なる場合もあります。しかし実用上は、HDPE(高密度ポリエチレン)でも多くの機械的要求を満たす十分な強度があります。
また、HDPE(高密度ポリエチレン)は低温環境に強く、ガラス転移点が約-125℃と非常に低いため、氷点下でも硬化せず靭性を保ちます。実用上でも、-20℃程度の厳しい低温環境下で性質を維持でき、冷凍用途でも使用可能です。これはPPが0℃以下で急激に脆くなるのと対照的な利点です。
耐薬品性|腐食性薬品の容器や配管に最適
HDPE(高密度ポリエチレン)は化学的に安定で薬品に強い材質です。強酸・強アルカリや多くの有機溶媒に対して侵されにくく、腐食性薬品の容器や配管に最適です。
ただし、強力な酸化剤(濃硝酸など)には弱い点があり、この種の薬品には注意が必要です。それでも、常温における酸、塩基、アルコール類には影響を受けないため、洗剤や薬品のボトル容器に広く利用されています。
絶縁性|電気絶縁性に優れケーブル被覆などにも活用
HDPE(高密度ポリエチレン)は電気絶縁性に優れ、電気を通さないためケーブル被覆などにも適します。また、吸水率が低く防水性にも優秀で、水に長時間浸漬しても物性が変化しにくいです。
一方で、寸法安定性はあまり高くなく、成形後の収縮が大きいため精密な寸法管理は苦手です。長期間荷重をかけると、徐々に変形するクリープ現象も金属より大きい傾向があります。
成形方法|幅広い成形プロセスに対応
HDPE(高密度ポリエチレン)は非常に幅広い成形プロセスに適応可能な材質です。具体的には、射出・押出・ブロー・回転・真空・圧空・発泡成形など、さまざまな方法で加工できます。
薄いフィルムから厚手のボトル、大型中空タンクまで対応できる汎用性があり、設計に合わせた最適な成形法を選択できます。また、射出成形では複雑な形状や細部のある製品も一体成形でき、量産に適した高い生産性を発揮します。
このように、HDPE(高密度ポリエチレン)は成形加工性が良好で量産しやすい材質です。
コスト|プラスチックの中でも安価な材料
ポリエチレン系素材であるHDPE(高密度ポリエチレン)は原料自体が安価で、プラスチックの中でも比較的安い部類に入ります。石油から大量生産される汎用樹脂のため、価格変動も比較的安定しており、ポリプロピレン(PP)や塩ビ(PVC)と並び低コストな材質です。
たとえば、HDPE(高密度ポリエチレン)製品は「安価で高強度」という特徴から大型コンテナやポリバケツ等に採用されており、金属製と比べて大幅なコストダウンが可能です。特に単位重量あたりの価格が安く、比重も水より軽いため、同じ体積・サイズの製品なら必要重量が少なくて済むので、素材コスト低減につながります。
加工コストの面でも量産成形に適しているため、一個あたりの製造コストを低く抑えられます。金型費用など初期投資は必要ですが、大量生産時には部品単価を大幅に下げることができます。成形サイクルも短く、自動化もしやすいため、人件費も含めた加工コスト面で有利です。自動化しやすい理由として、材料供給から成形・取り出しまでの工程が単純で連続運転に適していることが挙げられます。
また、樹脂は切削加工をほぼ必要とせず、成形品をそのまま製品として使えることが多いため、素材ロスや二次加工費も少なくて済みます。
ただし、HDPE(高密度ポリエチレン)は特殊な表面処理や接合処理が必要な場合があり、そのような二次加工を行うとコストが増す点には注意が必要です(表面印刷用のコロナ放電処理、溶着治具の費用など)。
寿命コスト(ライフサイクルコスト)の観点から見ても、HDPE(高密度ポリエチレン)は耐久性が高く寿命が長い材質であり、製品の交換頻度を減らせるため長期的なコストメリットがあります。
たとえば腐食しない物性があるため、金属のような防錆塗装や定期メンテナンスが不要で、その分の維持費がかかりません。HDPE(高密度ポリエチレン)製パイプは埋設配管において数十年の耐用年数があり、長期間の使用に耐えます。また軽量であることから、輸送コストの削減(燃費向上)にもつながり、流通・運用面でのコストダウン効果も期待できます。
一方で、直射日光下などの不適切な環境では、劣化が早まり早期交換が必要になるケースもあります。屋外用途ではUV劣化対策を施す(カーボンブラック入りの黒色HDPEなど)にして寿命延長することで寿命コストの低減が図れます。総合的にHDPE(高密度ポリエチレン)は、初期費用・維持費の両面で経済的な材質と言えます。
リサイクル性|リサイクルが容易なプラスチックの代表
HDPE(高密度ポリエチレン)は樹脂識別コードで「2番」を割り当てられており、世界中で収集・再生が行われている代表的なリサイクル樹脂です。
使用済みHDPE(高密度ポリエチレン)製品(牛乳ボトル、シャンプーボトルなど)は、粉砕・洗浄されて再生ペレットとしてふたたび成形材料に利用できます。適切に分別・加工すれば、HDPE(高密度ポリエチレン)は繰り返し溶融成形しても基本的な物性を大きく損なわずに再利用可能であり、資源循環の観点で優れた材質と言えます。
多くのメーカーが、バージン材に一定割合のリサイクルHDPE(高密度ポリエチレン)をブレンドして製品を作っており、材料コスト削減と廃棄物削減に貢献しています。リサイクル工程でも有害な副産物は出にくく、比較的環境負荷の小さい再生が可能です。
まとめ
HDPE(高密度ポリエチレン)は軽量でありながら高い強度・耐衝撃性・耐薬品性を備え、厳しい環境下でも性能を維持できる材質です。加工しやすく低コストかつリサイクル性にも優れており、産業用途で幅広く採用されています。
高温・紫外線に弱く、成形収縮率が大きい
HDPE(高密度ポリエチレン)は安価で成形が簡単な使い勝手の良い材質ですが、以下のような欠点もあります。
耐熱性|高温下では軟化・変形
HDPE(高密度ポリエチレン)の耐熱温度はおおよそ90~110℃程度であり、100℃前後までの使用に耐えます。沸騰水程度なら耐えられますが、融点は約130℃と低く、高温下では軟化・変形してしまうため、高熱がかかる用途には適しません。
たとえば、HDPE(高密度ポリエチレン)製容器は電子レンジ加熱に対応しないことが多く、電子レンジ対応容器にはより耐熱温度の高いPP製が用いられます。難燃性についても、HDPE(高密度ポリエチレン)は可燃性で自己消火性は備えておらず、PVCのような難燃性はありません。
耐候性|紫外線に弱く対策が必要
HDPE(高密度ポリエチレン)の耐候性は低く、紫外線に弱いことが欠点です。日光(UV)に長期間さらされると分子劣化が進み、素材が脆くなってひび割れ(クラック)を起こしたり、強度が低下します。屋外で使用する製品では、安定剤の添加や遮光対策、定期的な交換が必要です。
たとえば、屋外設置のHDPE(高密度ポリエチレン)製品(洗濯バサミ、収納ケースなど)は、日光で劣化し破損しやすいためメンテナンスが求められます。
加工性|冷却時に収縮
HDPE(高密度ポリエチレン)の成形収縮率は2~6%と大きめであり、冷却時にかなり収縮するため寸法精度はあまり高くありません。
成形品が設計寸法より収縮して小さくなることに注意が必要で、高い寸法精度が要求される部品には向きません。熱による膨張係数も金属に比べ大きく、温度変化で寸法が変動しやすいです。一般的にプラスチックは熱膨張が大きく、仕上がり精度は金属より低くなりがちです。
したがって、組立時に高精度が求められる箇所(ねじ穴の位置合わせなど)では、後加工や設計上の遊びを設けるなどの対策が必要です。ただし、一部用途では公差内に収まれば問題ないため、多くのケースで実用上は許容範囲の精度が得られます。
接合|接着剤による接合が非常に困難
HDPE(高密度ポリエチレン)は表面エネルギーが低く(非極性の樹脂)、接着剤による接合が非常に困難です。一般的な接着剤やインクが表面に濡れ広がらず弾いてしまうため、他部材との接着固定や印刷・塗装には特殊な処理(火炎処理やプラズマ処理など)や専用プライマーが必要になります。
接着できないことは設計上のデメリットの一つですが、代替手段として熱溶着(溶接)があります。HDPE(高密度ポリエチレン)同士であれば加熱により融着して強固に接合でき、HDPE(高密度ポリエチレン)製パイプの溶接(熱融着接合)では広く利用されています。その一方で、熱溶着には専用ヒーターや技術が必要であり、作業工程が増える点は留意すべきです。
また機械的接合(ネジ止めなど)も可能ですが、HDPE(高密度ポリエチレン)自体が柔らかいため繰り返し荷重がかかる箇所ではネジ穴が緩みやすくなります。そのため、インサートナットを埋め込むなどの対策がとられます。
表面処理・印刷|印刷や塗装が難しい
前述の通り、HDPE(高密度ポリエチレン)は表面がツルツルしていてインクや塗料が定着しにくく、印刷や塗装も難しい材質です。LDPE(低密度ポリエチレン)に比べても印刷適性が低く、HDPE(高密度ポリエチレン)製のポリ袋では多色の精細な印刷には適さないとされています(通常1~2色の簡易な印刷に留まります)。
ロゴや目盛りを印字する場合、エンボス加工(型押し)で直接模様を付ける方法や、ラベル貼付による対応が一般的です。外観意匠を施す際には、こうした制約を考慮する必要があります。
まとめ
HDPE(高密度ポリエチレン)は扱いやすい材質ですが、高温や紫外線に弱く、成形後の収縮が大きい点が課題です。精密寸法や屋外用途では、耐候対策や設計上の工夫が不可欠となります。
HDPE(高密度ポリエチレン)と他の樹脂との比較
この章では、HDPE(高密度ポリエチレン)を他の代表的な汎用樹脂であるPP(ポリプロピレン)やLDPE(低密度ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)と各観点で比較した表を示します。
| 特性項目 | HDPE | PP | LDPE | PVC |
|---|---|---|---|---|
| 引張強さ | ○ ~中程度(23~31 MPa) |
○ ~中程度(31~41 MPa) |
△ ~低い(8~31 MPa) |
○ ~高め(41~52MPa) |
| 耐熱性 | ○ ~良い(連続使用温度:90℃) |
◎ ~非常に良い(連続使用温度:120~130℃) |
△ ~やや低い(連続使用温度:約80℃) |
△ ~低い(連続使用温度:60~65℃程度) |
| 耐寒性 | ◎ ~優れる -80℃でも脆化せず |
× ~劣る -20℃付近低温下で脆くなる |
◎ ~優れる 低温下でも硬化・脆化せず |
× ~劣る -20℃付近低温下で脆くなる |
| 耐薬品性 | ◎ ~非常に強い 酸・アルカリなどに極めて安定 |
◎ ~非常に強い 酸・アルカリに強く、溶剤に溶けない |
◎ ~非常に強い 薬品や溶剤で侵されにくい |
○ ~おおむね良い 無機薬品に強いが有機溶剤には弱い |
| 加工性 | ◎ ~容易 射出成形・押出成形など量産加工が簡単 |
◎ ~容易 射出成形性良好で複雑形状も対応可 |
◎ ~容易 柔軟で成形しやすくフィルム加工適性も高い |
○ ~普通 押出・射出・真空成形など可能だが熱分解に注意 |
| 価格 | ◎ ~安価 汎用プラスチックで材料単価が低い |
◎ ~非常に安価 プラスチック中でも最も安い部類 |
◎ ~安価 大量生産され安価に入手可能 |
◎ ~安価 原料が安くコスト低い |
| 用途 | ○ ~広い 容器、パイプ、フィルムなど幅広く利用 |
◎ ~極めて広い 容器・自動車部品・繊維などあらゆる分野で活躍 |
△ ~やや限定的 主にフィルムや包装用途が中心 |
◎ ~広い 硬質は配管・建材、軟質はフィルム・シートなど |
まとめ
HDPE(高密度ポリエチレン)はPPやPVCと比べて、耐薬品性・耐寒性・加工性・コスト面で優れ、フィルムから容器まで幅広く活用される万能な材質です。一方で、耐熱性や用途の幅ではPPに一歩譲る場面もあります。
HDPE(高密度ポリエチレン)の成形・加工方法|使用環境や形状、強度要件を踏まえた加工方法の選定が必要

HDPE(高密度ポリエチレン)は熱可塑性樹脂としてさまざまな成形法に対応でき、用途に応じて最適な加工法を選択することができます。この章では、各成形・加工方法の特徴について紹介します。
押出成形|パイプやシート・フィルムの製造に広く用いられる
HDPE(高密度ポリエチレン)ペレットを加熱溶融し、連続的に金型から押し出して所定の断面形状に成形します。
パイプ(管材)やシート・フィルムの製造に広く用いられ、HDPE(高密度ポリエチレン)の耐薬品性・耐候性を活かした水道・ガス配管や土木用ライナーシート、建築用ボードなどが押出成形品の代表例です。
また、薄いフィルムも吹き出し式で押出成形されており、HDPE(高密度ポリエチレン)製の買い物袋やゴミ袋、食品包装フィルムなどは軽量かつ強度・耐水性に優れるため多用されています。
HDPE(高密度ポリエチレン)は他のポリエチレンより剛性が高いため、特に薄手で強度の必要なフィルム(食品包装の遮光フィルムや農業用マルチシートなど)に適しています。
射出成形|複雑形状の成形品を製作
溶融したHDPE(高密度ポリエチレン)を金型内に射出して複雑形状の成形品を作る方法です。HDPE(高密度ポリエチレン)は溶融粘度が低く、流動性が良いため精密成形に向いており、強度が要求される容器のフタ、ボトルキャップ、工業部品、コンテナ・クレートなどに使われます。
HDPE(高密度ポリエチレン)の剛性と寸法安定性のおかげで、ねじ山付きキャップや機械部品でも変形が少なく精度よく成形できます。
また成形サイクルが比較的短く、量産性が高いため、家電製品の外装や日用品など、さまざまな射出成形品に利用されています。
ブロー成形|中空容器の材料として標準的に活用
管状に押出した溶融樹脂(パリソン)を型内で空気圧により膨らませて中空品を作る成形法です。HDPE(高密度ポリエチレン)は中空容器の材料として標準的に使われ、ボトル容器、ポリタンク、ドラム缶など液体を保持する製品の多くはHDPE(高密度ポリエチレン)ブロー成形品です。
たとえば、牛乳や洗剤のボトル、家庭用ポリバケツから、大型の貯水タンクや燃料タンクまで、HDPE(高密度ポリエチレン)の耐衝撃性・耐薬品性を生かしてブロー成形による容器が製造されています。
HDPE(高密度ポリエチレン)は溶融強度が高く冷却時の収縮も均一なため、肉厚の中空体でも安定した形状を保ちやすく、内容物に対する安全性や長期耐久性が求められる容器用途に最適です。
回転成形|均質な肉厚形成が可能
回転成形製品には、LDPEやHDPE(高密度ポリエチレン)がもっとも多用されています。
ポリエチレンは粉砕しやすく熱安定性を持たせやすい上に、融点付近で粘度が低く金型内での流動性が良いため、均質な肉厚形成に適しています。HDPE(高密度ポリエチレン)はPE系でもっとも剛性が高く、耐薬品性や耐熱性にも優れるため、大型タンクなどの剛性・耐薬品用途で選定されます。
一方で、HDPE(高密度ポリエチレン)はLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)と比べて環境応力亀裂(ESCR)抵抗が低く、成形後の寸法安定性(反りや収縮ムラなど)にも課題があるとされています。そのため内容物や使用環境によっては、HDPE(高密度ポリエチレン)よりも靭性・ESCRに優れるLLDPEや架橋可能PE(XLPE)を用いて、亀裂発生を抑制することもあります。
総じてHDPE(高密度ポリエチレン)は、回転成形に適した材質であり、多くの樹脂メーカーが回転成形専用品質のHDPE(高密度ポリエチレン)粉末材料を提供しています。
溶接|均質な肉厚形成が可能
HDPE(高密度ポリエチレン)の溶接には、熱風溶接・押出溶接・熱板(バット)溶接・摩擦溶接といった代表的手法があり、材質の厚みや形状、要求強度、施工環境に応じて使い分けられています。
薄手シートの接合や小規模な補修には熱風溶接が多用されており、ホットエアガンでHDPE(高密度ポリエチレン)表面と溶接棒を同時に加熱し溶かして圧着します。
まず押出溶接は、樹脂製の溶接棒を小型押出機で溶融しながら継ぎ目に押し出して充填する方法で、厚みのあるHDPE(高密度ポリエチレン)部材同士の連続した強固な溶着に適しています。ランドフィル用ライナーや大型タンク製作など、高い強度と耐久性が求められる用途で威力を発揮します。
一方で、機材は熱風溶接より大型・高価になり熟練操作も必要なうえ、狭隘部や細部の作業には不向きです。実際のHDPE(高密度ポリエチレン)シート施工では、熱風溶接で仮固定(タック溶接)した後に押出溶接で本溶接を行うなど、双方を併用して効率と確実性を高める運用も行われています。
続いて、熱板溶接は主にHDPE(高密度ポリエチレン)パイプの接合に用いられる方法で、パイプ端面を加熱板で溶かしてから直接押し付けて融着します。適切に施工すれば、母材と同等以上の強度を持つ一体構造の継手が得られ、水道管・ガス管など高圧がかかる配管でも漏れのない信頼性の高い接続が可能です。
ただし大型の専用機器と十分な作業スペースが必要なため、小径管や複雑な取り合い部には適用しにくく、そのような場合には他の工法(ソケット溶接やエレクトロフュージョン溶接など)が選択されます。
最後に、摩擦溶接(振動式・スピン式など)は部品同士を高速振動や回転させ、その摩擦熱でHDPE(高密度ポリエチレン)を含む熱可塑性樹脂同士を融着する工法です。外部の熱源や追加材料を用いず短時間で強力な接合が得られるため、自動車のインテークマニホールドや各種タンク、家庭用器具の部品組立など、幅広いプラスチック製品に古くから活用されています。
HDPE(高密度ポリエチレン)管同士を摩擦溶接する試みも報告されていますが、加工には専用の設備が必要で継手形状や対応素材にも制約があるため、主に工場内の量産工程に適した手法と言えます。
まとめ
HDPE(高密度ポリエチレン)は押出・射出・ブロー・回転成形から溶接まで多様な加工法に対応でき、用途や形状、強度要件に応じて最適な工法を選択できる万能な材質です。加工性の高さが幅広い製品化を支えています。
HDPE(高密度ポリエチレン)の主な用途と応用分野|成形のしやすさやコスト効率の良さで幅広く活用

HDPE(高密度ポリエチレン)は耐久性・耐薬品性に優れ、低コストで利用できる汎用樹脂です。高い密度と強度を持つことから包装や建設など幅広い用途に使われており、その特性を活かしてインフラ(配管)、医療、農業、自動車、電気・電子、家庭用品など、さまざまな分野で活用されています。
包装|軽量で丈夫であるため大量生産品に採用
HDPE(高密度ポリエチレン)は軽量で丈夫、さらに薬品に強く内容物を汚染しない安全な材質であるため、包装分野で広く利用されています。
たとえば、HDPE(高密度ポリエチレン)はガラスと違って、割れることなく軽量で安全に扱え、洗剤などの化学物質による腐食や劣化にも耐性があります。
この特性を生かして、ボトル類や食品・化学品用容器、プラスチック袋・フィルムの材料として活用されています。引っ張りに強く、薄くしても丈夫で、大量生産に適した低コストな材質と言えます。
建設・土木| UV 安定剤を添加し屋外でも活用
建設や土木の分野でも、UV安定剤を添加したHDPE(高密度ポリエチレン)の耐久性・柔軟性・耐候性(紫外線や雨風に対する強さ)・耐薬品性が評価され、遮水シート(ライナー)や配管・継手類、外装パネルに採用されています。
安定剤を添加したHDPE(高密度ポリエチレン)は、化学薬品や紫外線にも強く、柔軟で破れにくく、錆びることもなく、金属管に比べて軽量で柔軟性があり、施工やメンテナンスが容易である点もメリットです。軽量ながら丈夫で、雨風や直射日光に晒されても劣化しにくいため、建物の外装仕上げ材としても重宝されています。
インフラ|水以外の流体にも活用
上下水道やガスなどのインフラ配管にもHDPE(高密度ポリエチレン)は多用されています。腐食しにくく柔軟で、軽量という特性により、地中に配管して長期間使っても漏水や破損が生じにくい安全な材質だからです。主な活用事例として、水道・下水管やガス管、農業用灌漑パイプなどが挙げられます。
HDPE(高密度ポリエチレン)配管は、軽量で曲げやすく腐食しないため地中埋設配管に適しています。配管自体の寿命が長く、従来の金属管よりも交換頻度が減ることで維持管理が容易です。薬品やガスによる劣化が少なく、内部のガス圧にも耐えられるため、ガスを安全に輸送できる配管材料となっています。
医療|生体適合性を活かし、人工関節にも活用
医療分野でも、HDPE(高密度ポリエチレン)は化学的に不活性(内容物や組織と反応しにくい)、耐衝撃性が高い、滅菌しやすいといった特長から、さまざまな用途で利用されています。
たとえば、医薬品・試薬容器や手術器具トレイ・義足、人工関節インプラントなどの活用事例があります。湿気を通しにくく薬品と反応しないため、内容物の品質や有効性を長期間保つことができます。
また軽量で衝撃に強い性質を活かして、人工股関節や人工膝関節の一部素材にHDPE(高密度ポリエチレン)系樹脂が使われる例があります。HDPE(高密度ポリエチレン)を使うことで、人工関節の長寿命化も期待されています。
その他|生体適合性を活かし、人工関節にも活用
農業分野では、HDPE(高密度ポリエチレン)は灌漑システムや温室フィルム、マルチシート、貯水タンクなどに活用されています。農薬・肥料など腐食性のある物質に対する耐薬品性を備えており、農作業の効率化や設備の長寿命化に貢献しています。
自動車産業では、HDPE(高密度ポリエチレン)の高い強度・耐薬品/耐衝撃性・軽量性を活かして、燃料タンクや内装部品、バンパー類、各種補機タンクなどの部品に使用されています。
まとめ
HDPE(高密度ポリエチレン)は軽量・高強度・耐薬品性・低コストといった特性を生かし、包装からインフラ・医療・自動車・農業まで幅広い分野で採用される汎用性の高い材質です。用途の多様さがHDPE(高密度ポリエチレン)の価値を支えています。
HDPE(高密度ポリエチレン)製品設計における実務上の留意点
最後に、実際にHDPE(高密度ポリエチレン)を扱う際に設計者が心得ておくべきポイントを経験的視点から解説します。
材料選定|高温下での剛性保持や高い寸法精度には対応できない
まず、設計段階でHDPE(高密度ポリエチレン)が本当に最適な材質かどうかを検討しましょう。
他材質との比較でも述べたように、HDPE(高密度ポリエチレン)は耐衝撃性・耐薬品性に優れ、UV安定剤などの添加により耐候性を高めやすい材質であり、軽量で成形性が良くコストを抑えたい場合には適しています。
一方で、高温下での剛性保持や極度の寸法精度が必要な場合には、PPやABS、PCなどの他材質の方が適することがあります。
たとえば、使用環境温度が100℃を超えるような部品ではHDPE(高密度ポリエチレン)は軟化しやすいため不向きであり、薄肉で剛性が要求される筐体などの場合、ABSやガラス繊維強化プラスチックの方がたわみが少ないでしょう。
逆に、マイナス温度域で使われ衝撃荷重がかかる部品や、腐食性薬品や水分に晒されるパーツではHDPE(高密度ポリエチレン)が安全策となります。
用途環境(温度・薬品・屋外暴露など)と要求特性(強度・剛性・透明性など)を整理し、HDPE(高密度ポリエチレン)の性質と照らし合わせて材料選定することが重要です。
肉厚設計|肉厚をできるだけ均一に保つことが基本
HDPE(高密度ポリエチレン)製品の設計では、肉厚(壁厚)をできるだけ均一に保つことが基本中の基本です。不均一な肉厚は成形時の冷却ムラを生み、ソリ(反り)変形やヒケ(沈み)の原因となります。
経験豊富な設計者は、まず部品全体で厚みが均一になるよう形状を工夫し、厚みの急変は避け、小さなリブやボスを追加しても厚みの連続性を保つことを重視します。目安として、肉厚のバラツキは±10%以内に抑えるのが望ましく、厚肉部が必要な場合は、中空構造にしたり、リブで補強したりして実質的な厚みを減らす工夫をしてください。
たとえば、HDPE(高密度ポリエチレン)では推奨肉厚2~4mm程度と言われており、これを大きく超える部位はヒケや変形が出やすいため、中子を入れて中抜きにするなど検討します。
また、シャープな角部形状は避け、適切なフィレットRを付けることも重要です。
角が尖った設計は成形時に、その部分で樹脂が行き渡らず充填不良やエア溜まりを起こしやすく、使用時にも応力集中で割れの起点になります。角にはできるだけ大きめの丸み(R)を付与し、HDPE(高密度ポリエチレン)が型内をスムーズに流れるようにするとともに、製品使用時の強度向上に寄与します。
リブやボス|必要に応じて補強用のリブやボスを設ける
HDPE(高密度ポリエチレン)は比較的剛性が低い樹脂なので、必要に応じて補強用のリブやボスを設けて剛性・強度を高めます。
リブ設計で注意すべきことは「リブの厚さ」です。主肉厚と同等かそれ以上の厚みのリブを付けると、その裏側に確実にヒケが発生して表面品質を損ねます。一般的に、リブ厚は隣接する壁厚の60%以下に抑えるのが推奨であり、高さも壁厚の3倍程度までにするのが良いとされます。
リブ先端はできるだけ丸め、根元にも十分なRを付けて樹脂の流れを妨げない形状とします。ボス(ねじ止め用の柱)についても同様で、肉厚が厚くなりすぎないよう穴径を大きめにとるか肉抜きを行い、基部には放射状にリブを配置して補強しつつヒケを最小化する設計が望ましいです。
加えて、リブやボスを配置する際は配置のバランスにも注意してください。片側に偏ると成形収縮の不均一から歪みの原因となるため、可能な限り対称配置や一様分布を心がけます。
抜き勾配|少なくとも側面に1度以上の勾配を設ける
HDPE(高密度ポリエチレン)は柔軟性があるとはいえ、金型からの離型設計は他樹脂同様に重要です。特に、深いポケット形状や高いリブ・ボスがある場合、十分な抜き勾配(ドラフト)を付けないと離型時に製品が変形したり、金型に張り付いてしまう恐れがあります。
一般的な目安は、少なくとも側面に1度以上の勾配を設けること、表面にテクスチャ(ざらつき加工)がある場合は1.5~2度程度とし、深い型ほど勾配を多めに取ります。
HDPE(高密度ポリエチレン)は比較的弾性が高いぶん、多少無理に抜いても変形で逃げてしまうことがありますが、それに甘えると製品が反ったり傷が付いたりします。特に、リブやボスの側面は勾配不足で擦れて「ドラッグマーク」(こすれ傷)が発生しやすい部分なので注意しましょう。
十分なドラフト角と表面仕上げ(鏡面ほど離型性良好)を確保し、必要なら離型剤の使用や金型冷却の最適化でスムーズな離型を図ります。
成形収縮と寸法精度|寸法公差は金属部品ほど厳しくは設定できない
HDPE(高密度ポリエチレン)は半結晶性樹脂で成形時の収縮率が比較的大きい部類です(2~6%)。そのため、精密な寸法が要求される部品では、金型製作時に収縮を見越した寸法補正が必要不可欠です。経験上、データシートの収縮率をもとに型寸法を拡大設定しても、実際の成形条件で多少の差異が出ることがあります。
フロー方向と垂直方向で収縮率が異なることもある(配向による)ため、重要寸法については試作型で実測した収縮実績を反映して金型仕上げを行うのが確実です。特に大物や肉厚品では、冷却時間やゲート位置によって収縮ムラが出やすく、必要に応じてリブ追加やゲート数増加で収縮を均一化する対策を検討します。
寸法公差は金属部品ほど厳しくは設定できない場合が多いので、要求精度に応じてプラスチック用の適切な公差設定を行い、重要寸法には測定データのフィードバックを反映させましょう。
使用環境|不具合を想定し、事前対策を実施
HDPE(高密度ポリエチレン)製品を設計・採用する際、使用環境で起こり得る不具合を想定し、事前に対策しておくことが大切です。
たとえば屋外で使用する製品では、紫外線劣化によるクラック(ひび割れ)発生に注意する必要があります。HDPE(高密度ポリエチレン)自体はカーボンブラックなどの添加でかなりの耐UV性を持たすことはできますが、無着色のままだと、長期曝露で表面がチョーク状に粉を吹いて脆化します。屋外用品を設計する場合、耐候グレード(UV安定剤入りのHDPE(高密度ポリエチレン))を選定するか、厚肉化・色付け(黒など)による紫外線対策を講じてください。
また高荷重がかかる製品では、HDPE(高密度ポリエチレン)のクリープ(長期荷重下での変形)特性にも配慮しましょう。特に高温環境下では、クリープ速度が増し、時間とともに部品が歪んだりたわんだりする可能性があります。必要であれば、リブで補強する、補助金具を付ける、あるいはクリープに強い材質への変更も検討します。
さらに食品・医療用途では、HDPE(高密度ポリエチレン)は無添加でも安全性が高い材質ですが、製造時の離型剤や加工油などの残留が問題になるケースがあります。クリーンな成形プロセスを前提に、必要に応じて滅菌工程を組み込むことも考慮します。
最後に、設計者自身が成形現場と連携しフィードバックを得ることも重要です。机上で完璧に見える設計でも、実際に金型を作って成形してみると思わぬ不具合が発生することがあります。射出成形品であれば、試作段階で樹脂の流動解析CAEを活用したり、試作品評価でウォーゲートやヒケ位置をチェックし、必要ならデザインを修正します。
HDPE(高密度ポリエチレン)は比較的扱いやすい材質とはいえ、基本ルールの遵守と試行錯誤が良品づくりのカギとなります。現場経験を積んだ技術者の意見を取り入れ、材料選定から設計・量産まで一貫した視点で検討することで、HDPE(高密度ポリエチレン)の持つポテンシャルを最大限に引き出すことができるでしょう。
まとめ
HDPE(高密度ポリエチレン)を用いた製品設計では、材料特性を理解した上で肉厚・リブ設計、抜き勾配、成形収縮への対応、使用環境の考慮が不可欠です。特性に応じた設計と試作検証が品質確保の鍵となります。
軽量・高強度・耐薬品性でインフラから日用品まで支える汎用樹脂
HDPE(高密度ポリエチレン)は軽量でありながら高い強度と優れた耐薬品性を持ち、成形しやすくリサイクル性にも富む汎用樹脂です。包装材から配管、医療、自動車部品まで幅広い分野で利用される一方で、高温や紫外線、成形収縮・接着の難しさなど、設計時に押さえるべき特有のクセもあります。
HDPE設計のポイント
- 材料選定:使用温度・薬品・荷重条件を整理し、HDPEが最適か他樹脂と比較して判断
- 肉厚・リブ設計:肉厚をできるだけ均一に保ち、リブ・ボスは主肉厚の約60%以下とすることでソリやヒケを抑えた成形性と外観を確保
- 成形収縮と寸法精度:収縮率2~6%を見込んで金型寸法を補正し、重要寸法は試作での実測値を金型にフィードバックして精度を高める
- 使用環境と劣化対策:屋外や高荷重部ではUV安定剤入りグレードや色付け、補強リブ・金具の追加などで、紫外線劣化やクリープによる変形を事前に抑制
HDPE(高密度ポリエチレン)の特性を正しく理解し、設計段階から加工方法や使用環境まで一体で検討することで、軽量で耐久性に優れた製品をコスト効率よく実現できます。試作・量産では、図面情報と実測データを活用しながら最適条件を探ることで、HDPE(高密度ポリエチレン)のポテンシャルを最大限に引き出していきましょう。
HDPE(高密度ポリエチレン)の試作・量産はバルカーのクイックバリューで即時見積
HDPE(高密度ポリエチレン)は、押出・射出・ブロー成形から溶接まで加工方法が多岐に渡り、用途や形状・強度要件に応じた最適な工法選定が製品品質を左右します。しかし、どの加工会社がHDPE(高密度ポリエチレン)にもっとも適した設備やノウハウを持っているかを調査するには、多大な工数と経験が必要となります。
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HDPE(高密度ポリエチレン)特有の成形収縮、肉厚設計、溶接強度など、検討すべき要素が多い部品でも、最適な工場選定と見積がスピーディに完了します。従来のように複数社へ個別問い合わせする必要はなく、図面1枚から試作・量産までの調達プロセスを効率化できます。

