MCナイロンとは?物性、素材比較、設計上の注意点について
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MCナイロンは機械部品の設計者や製造エンジニアにとって、金属代替材料として注目すべき高性能エンジニアリングプラスチックです。従来の金属部品が抱える重量、腐食、騒音といった課題を解決しながら、優れた耐摩耗性と機械的強度を両立できる材料として、自動車、産業機械、食品機械など幅広い分野で採用が拡大しています。
しかし、MCナイロンを効果的に活用するには、その特性を正しく理解し、設計上の注意点を把握することが不可欠です。特に吸水による寸法変化や熱膨張の影響は、精密部品では設計段階から十分に考慮する必要があります。
本記事では、MCナイロンの化学構造と製造法、各種特性(機械的・熱的・電気的特性)、主な用途、他材料との比較、加工性、長所と短所(設計上の注意点)について包括的に解説します。
MCナイロンとは

MCナイロンは、「Monomer Cast Nylon(モノマーキャストナイロン)」の略称で、通常のナイロン6(ポリアミド6)の弱点を克服し性能を高めた高性能ポリアミド樹脂です。機械的強度、耐摩耗性、耐熱性、耐薬品性に優れ、軽量であることから金属材料の代替にも重宝されるエンジニアリングプラスチックです。
MCナイロンは基本構造自体は従来のナイロン6と同じく、繰り返し構造に [–NH–(CH₂)₅–CO–] 基を持つポリアミド樹脂です。ただし、その製造法に特徴があります。通常のナイロン6樹脂は ε-カプロラクタムなどのモノマーを重合してペレット状にした後、射出成形や押出しで製品形状に加工します。
一方、MCナイロンはモノマーキャスト(MC)法によって製造され、モノマーの液を金型に注入して成形と重合を同時に行う点が異なります。カプロラクタム単量体を化学触媒で直接モールド内重合することで、非常に高い結晶化度と数十万に及ぶ高分子量を達成した結晶性ポリアミドになります。このモノマーキャスト法により樹脂の内部ひずみが極めて少なく仕上がるため、強靭で寸法安定性の高い高性能ナイロンが得られます。
まとめ
MCナイロンはモノマーキャスト法で製造される高性能ナイロン6です。高分子量・高結晶化により、強度・耐摩耗・寸法安定性に優れ、金属代替素材として幅広く利用されています。
高強度・耐摩耗・寸法安定を兼ね備えた物質特性
MCナイロンは強度・耐摩耗性・絶縁性など多岐にわたる優れた物性を持ち、金属代替材料や摺動部品、電気絶縁部材として幅広く活用できる性能を備えています。
機械的特性|引張強度96MPaで連続使用温度120℃
MCナイロンは、ナイロン系樹脂として非常に高い機械的強度と剛性を有します。
たとえば、標準グレード(MC901)では引張強度は乾燥状態で約96MPaに達し、同じ条件の一般ナイロン6(約62MPa)より高く、ポリアセタール(POM)の約62~75MPaよりも大きくなっています。
ヤング率(弾性率)も約3.43GPa前後と高く、剛性に優れます。この高強度と適度な剛性により、MCナイロンは金属の代替材料として歯車や構造部品にも適用可能な十分な機械的強度を備えています。
耐摩耗性・潤滑性|自己潤滑性に優れ無給油使用可能
MCナイロンの大きな特長の一つが優れた耐摩耗特性です。樹脂自体に自己潤滑性があり、潤滑剤なしでも摩擦係数が低く滑り特性に優れます。このため、摺動部品として使用しても相手材を摩耗させにくく、騒音低減効果もあります。実験的にも、ナイロン樹脂はPOMより耐摩耗性が高いことが示されています。
一方で、ナイロンは摺動条件によっては初期摩擦がやや大きく、POMの方が低荷重・低速領域では摩擦係数が小さい場合もあります。
しかし、総じてMCナイロンは耐摩耗性・耐疲労性に優れ、摺動部品(ギア、カム、ベアリング等)の材料として最適とされています。加えて、衝撃エネルギーの吸収や振動減衰能力も金属より高く、衝撃荷重や振動のかかる部位で摩耗・騒音を低減する効果があります。
寸法安定性|加工後変形が小さいが吸水膨張と熱膨張が大きい
MCナイロンはキャスト成形により内部応力(残留歪み)がほとんどないため、切削加工しても後から歪みによる変形が生じにくいという利点があります。これは一般的な押出・射出ナイロン材より加工後の寸法変化が少ないことを意味し、高精度な機械加工部品にも適しています。
また、ガラス繊維などで強化されていない純樹脂としてはクリープ(長時間負荷による歪み)特性や疲労強度も良好で、繰り返し荷重がかかる用途でも金属代替が可能なケースがあります。
しかし、寸法安定性に関して注意すべき点は吸水膨張と熱膨張の影響です。ナイロン樹脂全般に言えますが、温度変化や湿度変化によって体積・寸法が変わりやすく、精密部品ではその影響を考慮した設計が必要です。
たとえば、MCナイロンの線膨張係数は約9×10⁻⁵/℃です。比較のため、鋼の線膨張係数(代表値:約1×10⁻⁵/℃)に対して約9倍となるため、20℃温度上昇すると1mの部材が約1.8mm伸びる計算になります。
吸水に関しては、23℃/水中24時間浸漬で約0.8%の水を吸収します。室温・屋内環境での平衡含水率は約2.5~3.5%程度のことが多く、この程度の含水率の変化で長さ1mの部材が約0.75%程度伸びる例もあります(7~8mm程度の変動)。
したがってMCナイロンは機械加工しやすい反面、使用環境での温度・湿度変化による寸法変動には注意が必要です。
耐熱性|120℃連続使用、耐熱グレードで150℃対応
MCナイロンはエンプラの中でも比較的高い耐熱性能を持ち、長期連続使用温度は約120℃程度とされています。基本グレードでも120℃前後まで連続使用可能であり、耐熱強化グレードでは150℃程度まで使用温度上限を引き上げた材料も存在します。
MCナイロンの融点はナイロン6と同じく約220℃で、これはナイロン66の融点約250℃よりは低いものの、汎用樹脂と比べればかなり高温に耐えられます。
たとえば、ポリアセタール(POM)の連続使用温度は約80~100℃程度でナイロンよりやや低いレベルです。したがって耐熱目的で比較した場合、MCナイロンはPOMより優れているとされています。
絶縁性|乾燥時4.2×10¹⁵Ω·cmの高絶縁性
MCナイロンは基本的に電気絶縁性の高い材料で、乾燥した状態では絶縁材料として優れた性能を示します。誘電率(試験周波数1MHz)では約3.7程度で、汎用絶縁樹脂として十分な値です。
また、体積固有抵抗(体積抵抗率)は乾燥下23℃で約4.2×10¹⁵ Ω·cmと非常に高く、絶縁材料・部品(スペーサ、ブッシングなど)に使用可能なレベルです。
さらに絶縁破壊電圧はMC901の値で約20kV/mm(ASTM D-149)として報告されており、一定の厚みを確保すれば高電圧環境にも耐えることが可能です。
誘電特性と吸水の影響|含湿により絶縁抵抗が大幅低下
ナイロン樹脂の電気的特性で注意すべきは吸湿による絶縁低下です。ポリアミドは水分を吸収すると、極性の水分子の影響で誘電率が上昇し絶縁抵抗が大幅に低下します。
たとえば東レのアミラン™ の試験で、ナイロン6が吸水率を1%増加させるごとに体積固有抵抗率が約1桁低下するというデータがあります。乾燥時にはナイロン6の体積固有抵抗率はおよそ1×10¹⁵Ω·cm程度 ありますが、含水率を1%程度含むと10¹⁴Ω·cm程度に下がる可能性があります。誘電正接(損失)の増大も含湿に伴って起こり、特に低周波数域でその影響が顕著です。
このため、高湿環境下で長期間使用される電気部品にはナイロン6よりナイロン66の方が有利とされます(ナイロン66は吸水率が低いため)。もっとも、周波数が高い(MHz帯以上)場合には水分の影響が小さくなり、ナイロン6と66の差異は小さくなります。
総じてMCナイロンは乾燥状態では優れた電気絶縁材料ですが、湿度管理を要する用途では吸湿対策(防湿コーティングや密閉、あるいは材料選定)が必要です。
静電特性|帯電しやすいため導電グレードで対策
MCナイロンは絶縁性が高いため帯電しやすい材質でもあります。乾燥環境下では摺動により静電気が蓄積しやすく、帯電によるホコリ付着や放電に注意が必要です。
対策としては、帯電防止グレード(カーボンブラックなどを配合した導電性のMCナイロン:例 MC501CDシリーズ)を用いることで静電気トラブルを防止できます。導電性グレードのMC501CD R2での体積固有抵抗率はおおよそ1×10¹⁵Ω·cmという低い値が示されており、静電気対策が可能な導電レベル(帯電防止・拡散用途)になります。
まとめ
MCナイロンは高強度・耐摩耗・絶縁性を兼ね備えた高性能樹脂です。加工変形が少なく精密部品にも適しますが、吸水や温度変化による寸法変動には配慮が必要です。
主な用途|金属部品を樹脂化する用途で特に有用
MCナイロンはその優れた機械特性と軽量性から、さまざまな産業分野で金属部品の代替や性能向上の目的で採用されています。以下に主な用途例を挙げます。
| 製品分類 | 代表部品例 | 主なメリットや採用理由 |
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| 歯車・動力伝達部品 |
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| 軸受・すべり部品 |
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| 搬送機器部品 |
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| 食品機械・医療機械部品 |
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| 自動車・輸送機器 |
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| その他機械要素 |
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以上のように、MCナイロンは一般産業機械、搬送機械、食品機械、自動車、重機、電子機器など幅広い業界で、多種多様な機械部品に利用されています。特に、その軽さと強度から金属部品をプラスチック化(樹脂化)する用途に有用であり、部品点数の削減や省エネ(軽量化)に寄与しています。
まとめ
MCナイロンは歯車や軸受、搬送部品など多用途に活用される金属代替樹脂です。軽量・耐摩耗・自己潤滑性に優れ、省エネや静音化にも寄与します。
一般的なナイロン(PA6・PA66)との違い
MCナイロンを理解するうえで、ベースとなる一般的なナイロン(PA6・PA66)の特性をご説明します。
MCナイロン vs ナイロン6
MCナイロンは本質的にナイロン6と同じ化学構造ですが、製造プロセスの違いによって性能が向上している点が最大の相違点です。従来の押出・射出成形ナイロン6では重合済みポリマーを溶融成形しますが、MCナイロンは上述の通りモノマーから直接鋳造重合するため、分子量が飛躍的に大きく結晶度が高い材料となります。
これにより、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性などが一般のナイロン6より改善され、寸法安定性(加工後のひずみの少なさ)も優れています。実際MCナイロンは「ナイロン6の弱点を補った高性能樹脂」として位置付けられており、たとえば標準ナイロン6が苦手とする吸水による強度低下や成形歪みによる変形といった課題を克服しています。
一方で、基本構造が同じであるため吸水性自体は完全には解決できておらず、ナイロン特有の扱い上の注意点は一部共通します。
MCナイロン vs ナイロン66
まずはナイロン66(ポリアミド66、PA66)とナイロン6との違いですが、ナイロン66は分子鎖中に炭素数6と6のジアミン・ジカルボン酸からなるユニットを持つため、ナイロン6より分子構造が対称的かつ結晶性が高い点が異なります。そのため、ナイロン66はナイロン6に比べて機械的強度・剛性、耐熱温度、耐薬品性、低吸水性の面で優れた性質を示します。
乾燥時の引張強度はPA66で約87MPa、PA6で約62MPa となっており、PA66の方が高い値を示します。また融点についても、PA66は約250℃、PA6は約220℃と、PA66の方が高くなっています。
さらに吸水による物性低下もPA66の方が小さく、同じ環境下での平衡含水率はPA6より低く抑えられます。総合的に見ればPA66はPA6より高性能ですが、その分製造コストが高く価格も上昇します。したがって「ナイロン6 vs ナイロン66」の材料選定は要求性能とコストのトレードオフになります。
では、MCナイロンとナイロン66を比較するとどうでしょうか。一般にナイロン66は高温下での機械強度保持や寸法安定性でMCナイロンに勝る面があります。
しかし、MCナイロンは大口径や長尺の素材を鋳造で製造できるため、大型部品を一体成形できる利点や、切削加工による自由な形状加工の容易さがあります。
またMCナイロンのグレード展開により、耐熱グレード(耐熱安定剤添加)や耐衝撃グレード(改質PA6)など用途に応じた選択肢も豊富です。用途によっては「ナイロン66樹脂を射出成形する」代わりに「MCナイロンの半製品を削り出す」方が適切な場合もあり、設計者は性能要求・コスト・製造方法を総合的に検討して材料選定を行います。
まとめ
MCナイロンはナイロン6を改良した高性能樹脂で、強度・耐摩耗・寸法安定性に優れます。PA66よりも加工自由度が高く、大型部品の製作にも適しています。
他のエンジニアリングプラスチックとの比較
ここではMCナイロンを代表例として、ポリアセタール(POM)やPEEKなど他の主要エンジニアリングプラスチックとの性能比較を解説します。材料選定の目安として、各素材の得意分野・不得意分野を押さえておきましょう。
MCナイロン vs ポリアセタール(POM)
ポリアセタール(POM、一般的な商標:デュポン社の「デルリン」やポリプラスチックス社の「ジュラコン」)は、MCナイロンと並んで機械部品に広く使われるエンジニアリングプラスチックです。
MCナイロンとPOMはいずれも汎用エンプラとして優秀ですが、ナイロンは高強度・高耐摩耗・衝撃吸収性に優れ、POMは寸法安定・低摩擦・加工性に優れるという特徴があります。
吸水特性と寸法安定性|POMは吸水率0.2%でナイロンの1/4程度
ナイロン vs POMの比較で、まず注目すべきは吸水特性と寸法安定性です。ナイロン系樹脂は吸湿による性質変化が大きいのに対し、POMは吸水率が非常に低い樹脂です。MCナイロンで23°C24時間水中浸漬での吸水率は0.8%程度であるのに対し、POMの標準グレードでは同様な条件下で0.2~0.25%程度です。
寸法変化の一例として、ナイロンが含水によって寸法で数百分の1(0.5〜0.6 % 程度)膨張することがあり得る一方、POM では吸水および寸法変化とも非常に小さく、0.2 % 程度に抑えられることが多いです。
機械的強度と剛性|乾燥時はナイロン優位、耐クリープ性はPOMが勝る
機械的強度面では、乾燥状態ならナイロンの引張強度はPOMよりわずかに高い傾向があります(ナイロン6で約80MPa、POMで60~70MPa程度)。しかしナイロンは吸湿により強度・剛性が低下し、飽和状態では差が縮まります。
一方で、剛性(曲げ・圧縮強さ)や耐クリープ性はPOMが優れています。POMは高弾性率(約3.0GPa)かつ結晶性が高いためクリープ変形が少なく、高荷重下でも寸法保持性に優れます。
荷重特性|動的荷重にはナイロン、静的荷重にはPOMが適する
ナイロンは衝撃強さや疲労耐久性で勝る一方、POMの方が繰返し応力や圧縮荷重への耐性が高いとの報告があります(圧縮強さはPA66よりPOMが高い)。
つまり、動的荷重にはナイロン、静的荷重にはPOMが強いという使い分けも考えられます。
MCナイロン vs PEEK
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)はナイロンより更に高性能なスーパーエンプラに分類される樹脂で、MCナイロンとは性能も価格も大きく異なります。PEEK vs ナイロンの比較でまず挙げられるのは温度特性の圧倒的な差です。
耐熱特性|PEEK260℃連続使用、ナイロン80~120℃で圧倒的差
PEEKは連続使用温度が約260℃にも達し、高温下でも優れた機械的強度と寸法安定性を維持できます。
一方で、ナイロン系(PA6/PA66)は連続使用温度が80~120℃程度です。したがって、高温高荷重が避けられない用途ではPEEKが勝ります。
機械的強度・剛性|PEEK非強化90~100MPa、繊維強化で200MPa超も可能
機械的強度・剛性に関してもPEEKは非強化で90~100MPaの引張強度を持ち、ナイロン(80MPa程度)以上です。
さらにPEEKは高温下でも強度低下が少なく、ガラス繊維や炭素繊維で強化すれば200MPaを超える強度・剛性も実現可能なため、「重量当たり強度」で見ると一部金属を凌駕し得る性能を持ちます。ナイロンも繊維強化で強度向上はできますが、PEEKほどの高温強度維持は望めません。
耐薬品性|PEEK樹脂中トップクラス、ナイロンは強酸・濃アルカリで加水分解
また耐薬品性もPEEKの方が幅広い薬品に耐え、強酸・強アルカリや高温の蒸気に晒されても物性劣化しにくいです。
ナイロンは有機溶媒やオイル類には強いものの、強酸や濃アルカリには弱く加水分解しやすい欠点があります。この点でもPEEKは樹脂中トップクラスの耐薬品素材です。
吸水特性|PEEK飽和吸水率0.15%、ナイロン数%で寸法・電気特性に大差
吸水特性も両者は大きく異なります。PEEKの吸水率はごく低く、飽和吸水率で0.15%程度とされています。事実上吸湿による寸法変化や強度低下は無視できるレベルです。対してナイロンは上述の通り数%オーダーで水を吸うため、湿度環境での寸法・電気特性安定性はPEEKが圧倒的です。
このように性能面ではPEEKが軒並みナイロンを上回りますが、コストと加工性が大きなハードルとなります。PEEK樹脂は非常に高価で、価格はナイロンの数倍以上もします。また融点が約343℃と高く成形加工には特別な加熱設備が必要であり、切削加工も硬質で難削材の部類に入ります。
まとめ
MCナイロンは耐摩耗・衝撃吸収に優れ、POMは寸法精度、PEEKは高温・耐薬品性で優位です。用途条件やコストに応じた材料選定が重要です。
加工性|半製品を切削加工するのが基本

MCナイロンは射出成形や押出成形ではなく、モノマーキャスト法で大径丸棒、厚板、チューブ材などの形で供給されます。モノマーキャスト法とは、液状モノマーを型に流し込み、その中で直接重合させて成形する方法です。射出成形とは異なり、大型で肉厚な半製品を直接製造できる点が利点です。これら半製品を切削加工することで最終部品を作るのが基本的な加工フローになります。
次のような加工方法があります。
切削加工(機械加工)|工具摩耗少なく精密加工に適する
MCナイロンは切削性が良好で、旋盤・フライス盤・ボール盤などによる加工が比較的容易な材料です。金属に比べ軟らかく工具摩耗も少ないため、一般的な工作機械で切断・穴あけ・ねじ切りなどが行えます。切削面も良好な仕上がりが得られ、ねじ部や薄肉部の加工にも適しています。
溶接・接合|熱可塑性で溶接棒による融着が可能
MCナイロンは熱可塑性樹脂であるため、溶接による接合が可能です。たとえばプラスチック溶接では、ナイロン(PA)樹脂の溶接棒を用い、ホットエアーガンやヒーターで樹脂同士を融着させる方法があります。
接着(ボンディング)|専用接着剤で前処理なしでも強固接合
ナイロン材料は表面エネルギーが低く吸水もするため、接着が難しい素材として知られています。しかし近年では、ナイロン専用の高性能接着剤が開発され、前処理なしで強固に接合できるケースも増えています。
たとえば、アクリル系の二液混合型構造用接着剤(メタクリレート系、商品例:ITW社Plexus®など)は、ポリアミドに対してプラズマ処理やプライマーを施さなくても高い接着強度を発揮します。
まとめ
MCナイロンは大径材を切削して部品を製作するのが基本です。加工性に優れ、溶接や専用接着剤での接合も可能なため、修理・改造にも柔軟に対応できます。
設計の上で活かせるMCナイロンの長所
MCナイロン金属代替を可能にする強度や軽さに加え、耐摩耗性・耐薬品性・加工性など多面的な特長を兼ね備えており、設計自由度と信頼性を高められます。主な長所は次の通りです。
金属代替可能な高い機械的強度と靭性
引張・曲げ強度を持ち、衝撃に対して粘り強さがあります。特に温度上昇とともに耐衝撃性が向上し、摺動や衝撃荷重が加わる部品(歯車、ベアリングなど)に適しています。軽負荷であれば金属部品を置き換えても十分な強度を発揮します。
優れた耐摩耗性・自己潤滑性
ナイロン樹脂自体が潤滑性を持ち、無給油で使用可能です。摩擦係数が低く滑り特性に優れるため、軸受やカム、ライナーなど摺動部品で摩耗寿命を飛躍的に向上させます。運転時の騒音も低減でき、メンテナンスフリー化に貢献します。
比重1.16の軽量性
比重は約1.16とアルミニウム比重(約 2.70)の40~45%で非常に軽量です。部品を軽くできるため高速機構の慣性低減や、省力化・省エネ(搬送エネルギー低減)に繋がります。加工・据付けの際の人手負担も軽減できます。
-40℃~120℃の広い使用温度範囲
エンプラとして高い耐熱温度(連続使用120℃程度)を持ち、摺動発熱や周囲温度が高めの環境でも使用可能です。また低温下(-40℃付近)でも極端に脆化しないため、広い温度範囲で安定して使用できます。
油・溶剤・弱アルカリへの優れた耐薬品性
MCナイロンは油類、グリース、ガソリン、アルコール、弱アルカリ溶液などに対して安定で、膨潤や劣化を起こしにくいです。機械用潤滑油や燃料、工業用洗剤に曝される環境でも長期間性能を維持でき、金属では錆の問題がある場面でも腐食の心配がありません。
大型一体成形と短納期切削の加工自由度
大型厚肉材を鋳造で製造できるため、一体加工による複雑形状部品の製作が容易です。切削加工性も良く、追加工も含め短納期で部品を作れます。
また、樹脂なので必要に応じて溶接・接着も可能であり、リペアや改造にも柔軟に対応できます。設計変更にも素材在庫から削り出すことで即応でき、開発期間短縮に寄与します。
金属比で大幅な静粛性・振動吸収性
金属歯車をMCナイロンに変更すると、運転音が大幅に低減されます。樹脂の内部損失が振動エネルギーを吸収し、共振も起こりにくくなるため、静音化・騒音規制対策に有効です。工場設備の環境改善(騒音低減)や製品の高品質化(静粛動作)につながります。
まとめ
MCナイロンは高強度・軽量・自己潤滑性を兼ね備え、金属代替に最適です。静音性や加工自由度にも優れ、設計の自由度と信頼性を高めます。
設計上考慮すべきMCナイロンの短所
多くの利点を持つ一方で、吸湿による寸法変化や熱的・化学的な制約など、設計上の注意点も少なくありません。
吸水による寸法変化・強度低下
ナイロン最大の弱点は水分を吸いやすい点です。環境湿度や水分との接触により、MCナイロンは膨潤して寸法が変化し、機械的強度・剛性も低下します。
たとえば水中で飽和状態になれば重量で6%前後も水を吸収し、その結果として寸法変化(線膨張+膨潤)も相応に大きくなります。
また吸湿により引張・曲げ強度が低下し、剛性も半減することもあります。高湿度・水中での使用や長期間の寸法安定性が求められる用途では、吸湿対策や他材料の検討が不可欠です。
金属の9倍の熱膨張による精度影響
樹脂全般に言えますが、MCナイロンも温度変化で大きく寸法が変わります。特に大型部品では温度勾配で歪みが出たり、高温時にクリアランスがゼロになる(あるいは低温時にクリアランスが増大する)リスクがあります。
高温雰囲気や急激な温度変化がある環境では、単一材料で組み合わせる(同材同士なら同じだけ伸縮)などの工夫で影響を低減させる必要があります。
強酸・強アルカリによる加水分解脆化
MCナイロンは有機溶媒や油には強靭ですが、無機酸(塩酸・硫酸など)や濃アルカリには化学的に攻撃され脆化します。たとえば希薄な塩酸中でも徐々に加水分解し、強度が大きく損なわれます。
そのため酸性環境下での使用は不適で、防食が必要な場合は他の材料(フッ素樹脂やPPS等)を選ぶべきです。同様に高温の蒸気や熱水も加水分解を促進するため避けるべき環境です。
120℃超での急速な熱劣化
MCナイロンの使用温度は120℃程度が限界であり、それを超える高温環境では急速に力学特性が低下します。高温度域では使用不可であること、また連続使用時には安全側に温度マージンを取ることが必要です。
自己消火性なしの燃焼性
MCナイロンは着火すると燃焼し続ける可燃材質です。難燃グレードでない限り自己消火性はなく、火気のある場所での使用や防火対策が要求される箇所では制限があります。ただし燃焼時の発煙や有毒ガス発生は比較的少ない部類です。
まとめ
MCナイロンは吸湿や熱による寸法変化、強酸・強アルカリへの脆弱性が課題です。使用環境や温度条件を考慮し、材料選定と設計でリスクを抑えることが重要です。
MCナイロンの設計上の主な注意点

上記の長所と短所を踏まえ、設計段階で留意すべきポイントをまとめます。
環境条件の考慮|吸湿・温度による寸法公差・クリアランス設定
MCナイロン製部品の図面には使用環境の温度・湿度条件を織り込み、寸法公差やクリアランスを設定します。必要に応じて、吸湿後の膨潤量を試算し寸法補正を行います。極力密閉空間で使用したり、含湿が問題となる場合は、あらかじめ成形後に調湿処理を施しておくことも検討します。
他素材との組合せ|熱膨張差でバックラッシ変動
金属部品との組合せでは、熱膨張係数や弾性変形量の差に注意します。
たとえばナイロン製ギアと金属製ギアを噛み合わせる場合、温度変化でバックラッシが変動し得るため、中温度域で適正クリアランスとなるよう調整します。
化学的適合性|強酸・強アルカリ環境では材料再検討必要
設計時に接触する薬品・雰囲気を洗い出し、NaOHなどの強塩基溶液や強酸ガスが存在する場合はMCナイロンの採用を再検討します。多少の油・グリスは問題ありませんが、長期間の温水・蒸気曝露は避けるべきです。
リブ・肉厚設計|均一肉厚とリブ補強で内部応力差を回避
MCナイロンで大型部品を設計する際、肉厚が厚すぎると吸湿による内部応力差でソリや割れが生じやすくなります。可能な範囲で均一な肉厚にし、不要な部分はリブ構造で補強しつつ軽量化・肉厚低減することが望ましいです。
また隅部のR付与など、樹脂設計の基本に沿って応力集中を避けます。
締結・接合|金属インサートやヘリサートで高締結力確保
ナイロン部品にめねじを立てる場合、金属インサートナットの埋め込みや雌ねじ部の肉厚十分確保で緩み・破断を防ぎます。ボルト締結ではクリープによる締付力低下に配慮し、スプリングワッシャや再増し締め可能な構造とします。
接着の場合、前述のように適切な接着剤選定と表面処理(脱脂やアセトン拭き)を実施し、必要なら試験片で接着強度を確認します。溶接で継ぐ際は、溶接部位の強度低下を考慮し寸法補強します。
まとめ
MCナイロン設計では環境条件や他素材との膨張差を考慮し、寸法・締結設計を最適化することが重要です。薬品適合性や応力集中にも注意が必要です。
高強度・耐摩耗・軽量性を活かし、金属代替による高信頼設計を実現する材料
MCナイロンは、金属代替を可能にする強度・耐摩耗性・軽量性を兼ね備えた高機能樹脂です。一方で、吸湿や熱膨張、化学的制約など設計上の注意点も多く、特性を理解したうえで最適設計を行うことが不可欠です。正しい知識と設計配慮により、MCナイロンは金属では実現できない軽量・静音・メンテナンスフリー設計を実現します。
MCナイロン設計のポイント
- 吸湿と温度変化を考慮した寸法設計:膨潤・熱膨張による寸法変化を見込み、公差やクリアランスを設定
- 異素材接合時の膨張差対策:金属などと組み合わせる場合は、熱膨張係数の違いによる歪みやバックラッシ変動を補正
- 薬品・環境条件の適合確認:強酸・強アルカリ環境や高温蒸気下では他樹脂への代替を検討
- 肉厚・締結設計の最適化:均一肉厚やリブ補強で応力集中を避け、インサートや再締結構造で信頼性を確保
MCナイロンは設計段階での材料理解と寸法・環境対策を行うことで、軽量・高強度・静音性などの特性を最大限に発揮できます。適切な設計配慮を行えば、金属からの置換によるコスト削減・省エネ化・耐久性向上を同時に達成できる優れた材料です。
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MCナイロンはモノマーキャスト材をもとにした切削加工中心の部品製作が多く、サイズや形状によって価格差が大きくなりがちです。そのため、設計段階で費用や納期目安を早期に把握できることが重要です。
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MCナイロンのようにサイズや湿度条件で寸法変化を考慮する必要がある材質でも、図面情報をもとに最適な加工方法を提案。これにより、試作から量産までのリードタイム短縮とコスト見える化を同時に実現します。
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