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PPS(ポリフェニレンサルファイド)の特性・用途・加工法・他材料との比較、設計上のポイント

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PPS(ポリフェニレンサルファイド)の特性・用途・加工法・他材料との比較、設計上のポイント

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は、耐熱性・耐薬品性・寸法安定性・機械強度のいずれにおいても高い性能を持つ、スーパーエンジニアリングプラスチックの代表格です。射出成形・押出成形どちらにも対応し、フィルムや繊維、チューブ、板材、丸棒といった多様な形状で供給され、電気・電子、自動車、医療、半導体などの幅広い分野で採用されています。

一方で、溶融温度が高く、加工時には設備側の耐熱・耐摩耗性も求められるほか、グレード選定や設計上の配慮を怠ると性能を活かしきれない場面もあります。

だからこそ、単にカタログスペックを見るだけでなく、「なぜPPS(ポリフェニレンサルファイド)を選ぶのか」「他材質ではなぜ代替できないのか」「どう設計・加工すればその特性を活かせるのか」といった実務感覚を持つことが重要です。

本記事では、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の物性・耐薬品性・加工方法・代表的用途から、他のスーパーエンプラとの比較、そして設計者の視点から見た実践的な使いこなしポイントまでを開発担当者の実務に即した形で体系的に解説します。

PPSの概要

PPS(ポリフェニレンサルファイド)とは?

PPS(ポリフェニレンサルファイド)

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は、芳香族環と硫黄原子が交互に結合した構造を持つ有機高分子(ポリマー)です。

熱可塑性樹脂の中でも高性能エンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)に分類され、半結晶性で耐熱性の非常に高い材質です。その構造に由来して、優れた耐熱性・耐薬品性と機械的強度を発揮し、200℃を超える高温下でも機械的性質や耐腐食性を維持します。

吸水率が低く湿度環境で寸法安定性に優れるほか、難燃性(自己消火性)も備えています。純粋なPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂は不透明の白色~淡褐色で、約280℃の高い融点を持ち、連続使用温度は約240℃に達します。射出成形や押出成形による成形加工のほか、押出板・丸棒からの切削加工も可能で、工業用途で幅広く利用されています。

まとめ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は、耐熱性・耐薬品性・寸法安定性に優れたスーパーエンプラです。高温環境でも性能を維持し、精密部品から産業用途まで幅広く利用されています。

PPSの物性

高い熱安定性と耐薬品性、耐候性・耐久性に優れるため長寿命な部品設計が可能

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は、スーパーエンプラに分類される高性能、高温耐性のプラスチックです。この章では、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の物性について解説します。

物理的・機械的特性|機械的強度と剛性が高く疲労耐性も優れる

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は機械的強度と剛性が高く、高温下でも強度劣化が小さい点が大きな特徴です。

ガラス繊維などで補強されることが多く、含有率が 40~45wt%で強度が極大になります。ガラス繊維強化グレードでは引張強さが190MPa程度で、無充填グレード(70~80MPa)に比べ2倍以上に向上します。曲げ強さも無充填で約130MPa、ガラス繊維強グレードでは約290MPa程度と非常に高く、荷重に対するたわみが小さく硬い材質です。

さらにクリープ(長期荷重下での歪み)に強く、繰り返し荷重に対する疲労耐性も優れています。比重は約1.35~1.98と、汎用樹脂より高めですが金属より軽量であり、金属代替による軽量化材質としても注目されています。

耐熱性|連続使用およそ240℃で難燃性

PPS(ポリフェニレンサルファイド)の耐熱性能は非常に高く、無機質充填剤入で連続使用温度は240℃に及びます。熱分解温度は430℃、ガラス転移温度は88~92℃なので、はんだ付け工程などの一時的な高温でも熱変形しにくいです。UL94 V-0の難燃性を無添加で満たす自己消火性があり、燃焼しても有毒ガスを出しにくい特性があります。また熱分解もしにくく、300℃近い加工温度にも耐える安定性があります。

高温下でも剛性・強度の低下が小さいため、200℃を超える環境下で機械部品として動作する用途に適しています。たとえば長期連続で230℃程度のエンジン周辺環境でも使用可能で、必要に応じて240℃程度まで性能を維持できます。

ただし、ガラス転移点付近(約88~92℃以上)になると線膨張係数(熱膨張)が増大するため、超高温環境では熱膨張による寸法変化に留意が必要です。

耐薬品性|有機溶剤やオイルに強く難燃性

PPS(ポリフェニレンサルファイド)の耐薬品性は熱可塑性樹脂の中でもトップクラスに優れ、多くの化学薬品に侵されません。

特に、アルコール、ケトン、脂肪族塩素系溶剤、エステル、液体アンモニアなどにはほとんど影響を受けず、有機溶剤や燃料、塩類、アルカリなど広範な薬品に対して安定です。耐油性・耐燃料性も高く、自動車用の各種オイルやガソリンへの耐性も良好です。さらに吸水性がきわめて低く、水・温水・蒸気による加水分解や劣化もほとんど起こりません

加えて、PPS(ポリフェニレンサルファイド)はカビ・微生物や塩素系漂白剤にも耐性を持ち、屋外での紫外線曝露や老化に対しても安定しています。耐摩耗性も良好で、研磨剤的な薬剤やスラリー環境でも比較的摩耗しにくいとされます。

ただし純粋なPPS(ポリフェニレンサルファイド)同士の摺動摩擦係数はそれほど低くないため、高い摺動特性が要求される場合は後述の潤滑剤混合グレードなどを用いることがあります。

電気特性(絶縁性)|高温はんだ付け工程にも耐える電気絶縁樹脂

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は電気的絶縁性に優れる高分子でもあります。体積抵抗率が非常に高く、耐湿性も高いため高湿度下でも絶縁性能の低下が小さいことが特徴です。

また高周波特性も良好で、誘電率・誘電正接が低く安定しているため、電子部品の基材やコネクタ部品に適しています。自己消火性で発火しにくい点も電気分野で重視され、UL94 V-0相当の難燃グレードを無添加で実現できるため、電装機器の安全基準を満たしやすくなっています

さらにPPS(ポリフェニレンサルファイド)は、高温はんだ付け工程(リフロー)にも耐える電気絶縁樹脂として、電子業界で重宝されています。高温実装が必要な、コネクタやソケットなどで従来の低耐熱樹脂(ナイロン等)から置き換えが進んでいます

化学的特性|強い酸化性薬品に注意

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は寸法安定性に極めて優れた材質です。熱変形しにくく、高温・高湿環境下でも寸法変化が小さいため、精密部品の成形材質として適しています。

たとえば、高温多湿下でも吸水膨潤がほとんど起こらず、クリアランス保持が重要な部品に用いても厳しい公差を維持できます。実際、PPS(ポリフェニレンサルファイド)は吸水率が極めて低く、24時間水中放置で0.02%程度で、ナイロン等の汎用エンプラ(吸水率数%以上)とは一線を画します。この低吸水性のおかげで、湿度変化による寸法変動や機械強度低下が起こりにくく、水や蒸気への長期曝露下でも安定した性能を発揮します。

また耐候性(屋外暴露に対する安定性)も良好で、紫外線やオゾンによる劣化、長期老化に対して耐性があります。屋外で長期間使用されるフィルター布や塗装用途にも採用され、素材自体が劣化粉化しにくいことが確認されています。さらに耐放射線性も比較的高いとされ、放射線滅菌を行う医療機器部品などにも適用例があります。

まとめ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は高温下でも強度や寸法を保ち、薬品・湿度・紫外線に強い高耐久樹脂です。長期安定性に優れ、精密部品の長寿命化に貢献します。

PPSの短所

伸びや衝撃強度が低く、設計時に工夫が必要

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は優れた耐熱性・耐薬品性と機械的強度を持つ一方で、以下のようなデメリットもあります。

靭性・伸び|衝撃荷重や大きなたわみを伴う用途には不向き

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は靱性(ねばり強さ)や伸びは限定的で、特に、ガラス繊維強化品は低い(脆い)傾向があります。衝撃強度も高くはなく、ノッチ付きアイゾッド衝撃強度は無充填で数kJ/m²程度、充填グレードではさらに低下します。

したがって、衝撃荷重や大きなたわみを伴う用途には不向きであり、設計時に急激な応力集中が起きない形状とする配慮が必要です。切削加工時に割れのリスクもある硬質材料で、成形品のゲート設計や後加工に熟練が必要です。

加工性|融点が高いため、成形設備や金型に耐熱性が求められる

PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂は融点が約280℃と高いため、射出成形や押出成形などの加工時には加熱筒(シリンダー)温度や溶融温度を300℃前後に設定する必要があります。そのため、成形機自体や使用する金型には高温環境に耐えられる設計と材料が求められます。

実際に加熱筒の温度設定は300~320℃程度、金型も120~130℃に加熱し、結晶化を安定させて寸法精度や物性を確保する運用が一般的です。

化学的特性|強酸に注意

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は、強酸や強い酸化性薬品には注意が必要です。希薄な塩酸や硝酸であっても長時間の曝露で徐々に影響を受けることが報告されており、濃硫酸や発煙硫酸のような強酸性の環境下では材料が劣化します。

また、ハロゲン元素(塩素ガス、臭素など)や発煙性の酸化剤はPPS(ポリフェニレンサルファイド)を攻撃し、脆化や腐食を招くため非推奨です(塩素・臭素・発煙硫酸・クロム酸・王水などは「適さない (C)」判定)。一般的な使用環境で遭遇する酸・アルカリ・有機溶媒には強いものの、高温高濃度の強酸性雰囲気だけは避けるのが賢明です。

染色性|多くの染料や顔料が定着しにくい

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は染色性が低い(着色しにくい)点も挙げられます。その化学的安定性ゆえに多くの染料や顔料が定着しにくく、着色は通常樹脂ペレットに顔料を混練した状態で供給されます。

また、成形直後の外観色は灰色~薄茶色で、熱履歴により褐色化することがあります(古くは高分子量化のためのキュア処理で茶色味を帯びた製品もありました)。このため意匠的な用途にはあまり使われず、どちらかといえば性能重視の内部部品や構造部品向けの材質と言えます。

まとめ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は高強度で耐熱性に優れる一方で、衝撃やたわみに弱く脆い性質があります。設計時は応力集中や加工条件に配慮し、強酸環境を避けることが重要です。

PPSのグレード

PPS(ポリフェニレンサルファイド)の種類とグレード

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は合成プロセスや分子構造の違いによりいくつかのタイプに分類され、市場にはさまざまな改質・強化グレードが供給されています。

この章では、代表的なPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂の種類と主なグレード展開について解説します。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂の主な種類

PPSの種類
PPSの種類 構造の特徴 機械的性質 加工性 用途例 補足説明
リニア型 直鎖構造、高分子量 高靭性、優れた延伸性 良好(射出成形・押出成形に最適) 薄肉精密部品、電子部品、医療機器部品など 現在の主流グレードであり、改質も容易
キュアド型 架橋構造(加熱により部分的に架橋) 高剛性・高強度、靭性はやや低い 溶解性がなく加工性はやや劣る 自動車エンジン周辺部品、耐熱筐体など 高温安定性に優れるが、リサイクル性が低い
ブランチ型 直鎖に分岐が入った構造 リニア型とキュアド型の中間的性質 一定の加工性と剛性を両立 一般産業部品、パイプ、バルブなど 一部用途に使用されるが流通量は少ない

PPS(ポリフェニレンサルファイド)コンパウンド(補強・充填グレード)|各種のフィラー(充填材)や繊維で強化・改質

PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂は各種のフィラー(充填材)や繊維で強化・改質され、用途に応じたグレード展開が豊富です。ベースとなる樹脂の耐熱・耐薬品性が高いため、フィラー添加による性能向上の幅が大きく、補強材との組み合わせで多彩な特性を引き出すことができます

主なコンパウンドと特長は以下の通りです。

PPSの種類
グレード分類 主な構成・充填材例 特徴・利点 主な用途例
ガラス繊維強化(GF) ガラス繊維30~40%含有 高強度・高剛性、引張強度150MPa~200MPa、寸法安定性◎ 自動車部品、コネクタ、構造部品
鉱物充填 ガラス+鉱物の複合充填 熱膨張低減、成形収縮小、寸法安定性高いが強度はやや劣る 精密構造部品、コネクタ、制御部品
炭素繊維強化(CF) カーボンファイバー 非常に高い剛性・耐クリープ性、導電性付与可能 EMI対策部品、ハウジング、構造材
自己潤滑・摺動グレード 固体潤滑剤(PTFE、グラファイトなど) 摩擦係数低減、耐摩耗性大幅向上 軸受、ギア、スライド部品
導電性・帯電防止 導電性フィラー(カーボンブラックなど) 静電拡散性、導電性、ESD対策 半導体装置部品、防爆部品、治具類
無充填ナチュラル PPS純樹脂のみ 機械強度は低めだが延伸性に優れ、成形性良好 フィルム、繊維、医療薄膜部品など
難燃・高純度グレード 添加剤による発煙性・純度調整 UL、IEC規格対応、発煙低減、イオン不純物低減 半導体製造用部材、車載電子機器
ポリマーアロイ型 他樹脂とのアロイ(PPS(ポリフェニレンサルファイド)+高耐衝撃樹脂) 耐衝撃性改善、加工性向上、用途は限定的 一部の家電部品、筐体部品など

まとめ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は、構造やフィラー組成により特性が大きく変化します。用途に応じたグレード選定によって、強度・耐熱性・導電性・摺動性などを最適化できます。

他スーパーエンプラとの比較

PPS(ポリフェニレンサルファイド)と他スーパーエンプラとの比較

PPS(ポリフェニレンサルファイド)はスーパーエンジニアリングプラスチック(高性能エンプラ)に分類されます。他の代表的なスーパーエンプラと比べ、その耐熱性・耐薬品性・機械的強度などの特性を以下の表にまとめました。

PPSと他スーパーエンプラとの比較
比較特性 PPS PCTFE PVDF PBI PI PSU
連続使用温度(℃) 約200~240℃ 約120℃ 約150℃ 345℃以上 約260℃ 約175℃
耐薬品性
(酸・アルカリなどに高耐性)

(ほとんど全ての薬品に耐性、PTFEに次ぐ)

(酸・アルカリに強いが一部有機溶剤に弱い)

(高温・高圧スチームや有機溶剤でも分解劣化しにくい)

(ほとんどの溶剤に侵されない)

(酸や油には強いが、強酸など極端な環境では劣る場合あり)
機械強度(MPa)
(引張強度66~86MPa)

(引張強度31~41MPa)

(引張強度25~50MPa)

(引張強度160MPa)

(引張強度140MPa)

(引張強度70MPa)
寸法安定性
(吸水率が低く、温湿度による寸法変化が極小)

(吸水率が低く、温湿度による寸法変化が極小)
※熱膨張係数はやや大きめ

(吸水率が低く、温湿度による寸法変化が小)

(高温でも寸法変化僅少)

(吸水率低く、広い温度範囲で安定)

(吸水率が低く、温湿度による寸法変化が極小)
成形加工性
(熱可塑性で射出成形しやすく量産向き)

(熱流動性が悪く成形困難。粉末圧縮焼成や切削で成形)

(他のフッ素樹脂より成形性良好。射出成形や溶接も可能)

(圧縮成形+切削加工が中心。加工には高度な技術が必要)

(通常射出不可。成形には金型内重合や焼結・切削加工など特殊工程)

(熱可塑性で射出成形可能)
コスト(相対)
(スーパーエンプラ中ではコストパフォーマンス良好)

(特殊用途向け少量生産のため高価)

(一般樹脂より高価だがフッ素樹脂中では中程度)

(もっとも高価な樹脂の一つ)

(超耐熱ゆえ価格も非常に高い)

(汎用エンプラより高価だがPBIやPIほどではない)

まとめ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)はスーパーエンプラの中でも、高い耐熱性・耐薬品性・寸法安定性・加工性をバランス良く備える点が特徴です。PBIやPIほどの超耐熱性はないものの、量産性とコストパフォーマンスに優れ、広範な産業用途で最適解となる材質と言えます。

PPSの用途

PPS(ポリフェニレンサルファイド)の用途|金属材料や従来樹脂の代替として活躍

PPS(ポリフェニレンサルファイド)の用途

PPS(ポリフェニレンサルファイド)はその優れた特性から、自動車・電気電子・産業機器・医療など、さまざまな分野で金属材料や従来樹脂の代替として活躍しています。

この章では、業界分野ごとの主な用途例と採用理由について紹介します。

自動車産業|高温・腐食性環境下の部品に活用

自動車のエンジンルーム内部など高温・腐食性環境下の部品では、軽量かつ高耐久なPPS(ポリフェニレンサルファイド)が金属に代わる材質として定着しています。

たとえば自動車産業では、エンジン周辺の燃料系・冷却系・電装部品に数多く採用されています。PPS(ポリフェニレンサルファイド)は金属部品より軽量で、腐食(塩害)や各種オイル・冷却水に耐え、しかも高温に晒されても形状寸法を安定に保てるためです。

具体的な用途例としては、燃料噴射システムの部品、冷却水系統のポンプインペラーやサーモスタットハウジング、ブレーキ用の電動モーター部品、各種スイッチハウジング、ランプホルダーなどが挙げられます。特にエンジンの真下(アンダーザフッド)環境は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)最大の市場であり、エンジン周辺部品への金属・熱硬化性樹脂からの置き換えが近年進んでいます

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は寸法精度よく成形でき、複雑形状の一体成型やインサート成形にも適するため、部品点数削減による軽量化・信頼性向上にも貢献しています。なお車両の内外装(インテリア・エクステリア)用途に使われることは稀で、主にエンジンルーム内や電装モジュール内部の機能部品が中心です。

電子・電気分野|耐熱性や寸法安定性が必要な環境で使用

高耐熱かつ高強度ではんだ付け工程に耐えることから、特に電子部品(コネクタ、ソケット等)の精密成形材質として需要が伸びています。PPS(ポリフェニレンサルファイド)は溶融時の流動性が高く成形収縮が小さいため、微細ピッチのコネクタやICソケットを寸法精度良く量産できます。

また、機械的剛性が高く組立時に変形しにくいため、信頼性の高い接続が可能です。具体的な採用例として、トランスやモーターのボビン(絶縁枠)、各種電気コネクタ、ハードディスクの部品、電子機器ハウジング、ソケット・スイッチ・リレーなどが挙げられます。

これらは従来、ナイロンやPBTなどで作られていたものが多いですが、近年は動作環境温度の上昇やはんだ工程の高温化に伴い、PPS(ポリフェニレンサルファイド)への置換が進んでいます。PPS(ポリフェニレンサルファイド)はUL規格の難燃グレードを無添加で満たすことから、追加の難燃剤が不要であり、電気製品の安全基準もクリアしやすいメリットがあります。

このように、PPS(ポリフェニレンサルファイド)は耐熱・耐燃・高精度成形が要求される電気電子部品において理想的な材質の一つとなっています。

家電・機器用途|身近な製品にも活用

PPS(ポリフェニレンサルファイド)の寸法安定性と耐薬品性は、家庭用電気製品や産業機器の部品にも適用されています。

たとえばキッチン家電では、フライパンや電気ケトルの取っ手、炊飯器の内蓋、アイロンのバルブ部品など、高温部位やスチームがかかる部品に使われています。

また空調機器では、エアコンやヒーターの高温部品(送風ファン、グリル、バルブなど)にPPS(ポリフェニレンサルファイド)製部品が使われ、耐熱・耐水蒸気性と寸法安定性によって長寿命化を実現しています。

その他電子レンジの回転テーブル支持部やヘアドライヤーの吹出口グリルなど、熱と絶縁の両方が要求される部分にもPPS(ポリフェニレンサルファイド)が使われます。家電分野ではPPS(ポリフェニレンサルファイド)はまだ限定的な採用ですが、要求仕様が厳しい箇所(高温高湿環境や高出力機器)で一部見られます。

医療分野|高圧蒸気にも繰り返し耐える

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は医療機器の中でも、高温殺菌や高強度が要求される部品に使われています。

ガラス繊維強化グレードなど高剛性のPPS(ポリフェニレンサルファイド)は、メスや鉗子など外科手術器具のハンドル部品や各種医療装置の構造部品に利用されています。オートクレーブ(高圧蒸気滅菌)に繰り返し耐え、薬品消毒にも耐えるため、金属やPEEKに次ぐ耐滅菌プラスチックとして注目されています。

たとえば、内視鏡や手術用ロボットの一部樹脂パーツ、歯科機器ハンドルなどがPPS(ポリフェニレンサルファイド)製です。またPPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維は、医療用フィルターや分離膜にも応用されており、人工腎臓装置の一部フィルター素材として使われる例もあります。

まとめ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は高耐熱・高耐薬品性を活かし、自動車・電子機器・医療分野などで金属や従来樹脂を代替する材質です。軽量化や高信頼性、長寿命化に貢献しています。

PPSの成形・加工方法

PPS(ポリフェニレンサルファイド)の成形・加工方法|融点・成形温度に注意

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は熱可塑性樹脂であり、射出成形や押出成形などの一般的な樹脂成形・加工法で製品化できます。

ただし融点・成形温度が高く、ガラス繊維などの充填材を含む場合は設備への負荷も大きいため、加工条件にはいくつか注意が必要です。

射出成形|PPS(ポリフェニレンサルファイド)製品のもっとも一般的な加工法

射出成形は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)製品のもっとも一般的な加工法です。

高温溶融状態の樹脂を金型に射出し冷却固化する工程ですが、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の場合、シリンダー温度300~330℃程度と非常に高温での射出が必要です。金型温度も120~160℃程度に加熱して使用するのが望ましく、これにより成形品を十分結晶化させ、歪みや反りを抑えます。

射出圧力は一般的に80~130MPa程度と高めに設定し、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の低粘度に合わせて、金型の隙間から樹脂が漏れないように高精度な金型合わせが必要です。PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂は非常に流動性が良い反面、粘度が低く型締めが甘いと容易にバリが発生するためです。

また、成形前の予備乾燥も重要です。PPS(ポリフェニレンサルファイド)自体は吸湿しにくいですが、混合された炭素繊維などがある場合は水分を含むことがあります。そのため成形前に160℃で3~4時間程度の乾燥を行い、水分起因の成形不良(銀スジ、ボイド)や機械特性低下を防ぎます。特に、炭素繊維強化グレードでは乾燥が推奨されています。なお乾燥不足だと、射出中にノズル先端から樹脂が垂れる「ドロージング」や表面の荒れが生じるため注意が必要です。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は射出成形時の充填流動性が高く、薄肉・複雑形状でも行き渡りやすい利点があります。一方で、樹脂の冷却固化が早く結晶化速度が高いため、必要に応じて成形後にアニール(後熱処理)を行い結晶化を完了させることがあります。たとえば量産性を上げるために金型を低温にして成形し、一旦未結晶のまま成形品を出してから、別工程で加熱して完全結晶化させる方法もあります。ただし、この方法は寸法精度に影響を与える可能性があるため、高い寸法安定性が要求される用途では金型内で十分に結晶化させる条件(高金型温度で冷却)を採ります

押出成形・二次加工|板・棒・チューブ・フィルム・繊維の製造

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は押出成形によって、繊維、フィルム、チューブ、ロッド(丸棒)、板材などにも加工されます。押出成形では、樹脂を溶融してダイから連続的に押し出し、所定の形状にします。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)の場合、他の熱可塑性樹脂に比べて高温での押出となるため、押出機のシリンダー・スクリューには耐熱合金やセラミックコーティングが用いられることがあります。また充填材入りのPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂は溶融粘度が高く、かつフィラーによる摩耗で機械部品が磨耗しやすいため、上限側の温度条件で押出して樹脂流動をスムーズにすることが推奨されています。

押出により製造された半製品形状(板・丸棒・パイプなどの素材)は、その後切削加工(機械加工)によって最終部品形状に加工されます。PPS(ポリフェニレンサルファイド)は硬質で寸法安定性が高いため、精密加工にも適しています

さらに高精度が要求される半導体分野向けには、特殊な高純度PPS(ポリフェニレンサルファイド)板・パイプも供給されており、微細加工時の黒点・ストリーク(流れムラ)などの欠陥を極小化する製造管理が行われています

PPS(ポリフェニレンサルファイド)のフィルムや繊維も押出プロセスで作られます。たとえばPPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルムは、無充填PPS(ポリフェニレンサルファイド)をスリットダイから押し出し、延伸して製膜します。薄膜状ではPPS(ポリフェニレンサルファイド)も比較的柔軟で、高引張伸び(通常の成形品より延びる)と耐薬品性を活かし、コンデンサの薄膜や耐熱テープ基材に使われます。市販品として、PPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルムは衝撃改良された高伸びの製品があり、柔軟で曲げに強い特性を持ちます。

また、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維はスピナレットから紡糸され、フィラメント糸やステープル繊維として産業用フィルター布などに用いられています。

その他の加工法・組立|加工のポイントを押さえれば二次加工でも精密加工可

PPS(ポリフェニレンサルファイド)には、他にも射出発泡成形やブロー成形(中空成形)など特殊成形法への応用例があります。ただし、融点が高くブロー成形で空洞体(中空容器等)を作るのは難易度が高いため、一般的ではありません。

一方で、インサート成形(金属部品を埋め込んで射出成形)やアウトサート成形(成形後に他材料と組み合わせ)には適しており、コネクタへの端子埋め込み成形などに多用されています。

成形品の組立方法としては、ねじ止め、圧入、接着、溶接などが考えられます。PPS(ポリフェニレンサルファイド)は硬質でクリープが小さいため、セルフタッピンねじ止めによる締結に向いた樹脂と言われます。

ただし、ねじ込みの際にねじ山を形成するタイプ(タッピンねじ)を推奨し、割裂を避けるため適正な下穴径設定や十分なねじ埋込み深さが重要です。

接着(接着剤による固定)については、PPS(ポリフェニレンサルファイド)表面が化学的に惰性で濡れにくいため、やや難しいですが可能です。エポキシ系やシアノアクリレート系の接着剤が使われることがあります。設計上、機械的締結は局所的な応力集中を生みがちですが、接着であれば荷重を面全体に分散できるため、PPS(ポリフェニレンサルファイド)のような脆性プラスチックには有効な組立手段となります。ねじ穴が困難な薄肉部品や、応力集中を避けたい箇所では接着剤や複合接合の採用も検討されます。

溶接・融着については、PPS(ポリフェニレンサルファイド)同士を融着させるには高温が必要なので、一般的ではありません。しかし、超音波溶着によって短時間局所加熱すれば接合が可能であり、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂部品同士や金属メッシュとの溶着事例もあります。

またレーザー透過溶着用のグレードも開発されており、赤外線を吸収する添加剤を入れることでPPS(ポリフェニレンサルファイド)部品のレーザー溶着を実現した例もあります。もっとも、PPS(ポリフェニレンサルファイド)はボルト締結でも十分な強度保持が可能なので、必要に応じ適切な方法を選択します。

切削加工にも触れておくと、PPS(ポリフェニレンサルファイド)成形品や押出板・棒は切削で追加工することが可能です。ただし脆く硬いため、切削時に欠け・割れが生じないよう注意が必要です。切削刃物には超硬工具など硬質なものを用い、バリ抑制には適していますが、急激なクランプ締付けや高速送りでの割れに注意します。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は切削時に切りくずが細かく途切れやすく(短いチップとなる)、微細な穴あけ加工などでは逆にバリが出にくい利点があります。

まとめ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は高温成形が必要な高性能樹脂です。射出・押出成形や切削加工が可能ですが、設備耐熱性や乾燥管理など条件設定が精度と品質を左右します。

PPSの形態

PPS(ポリフェニレンサルファイド)製品の形状と規格サイズ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)製品の形状

PPS(ポリフェニレンサルファイド)はさまざまな形態で供給されており、用途に応じて選択できます。基本的にはメーカー各社から成形用のペレット(粒状樹脂)として販売され、射出成形機などで使用されます。

また、押出成形による半製品(板材・丸棒・パイプなど)も市販されており、少量生産や大型部品ではこれらを機械加工して用いるケースも多いです。

PPSの種類
製品形状 主な仕様・寸法 特徴・用途 製造方法
ペレット(粒状樹脂)
  • 円柱状または丸みを帯びた粒状樹脂
  • 直径数mm程度(典型的には約3mm)
  • 射出成形・押出成形など熱加工の原料として用いられるPPS樹脂の基本形態
  • 難燃性(無添加でUL94 V-0)や高い耐薬品・耐熱性を持ち、自動車・電気電子部品など幅広い用途の成形材料となる
  • ガラス繊維や炭素繊維充填、潤滑剤添加など用途に応じたコンパウンド品も各種展開
  • ナトリウム硫化物とパラジクロロベンゼンの重縮合反応でPPS(ポリフェニレンサルファイド)ポリマーを合成後、溶融押出してペレット化する
  • 線状PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂の開発により射出成形や押出成形など溶融加工が可能
板材(シート・プレート)
  • 押出成形による半製品板
  • 厚み約10〜70mm、幅500・620・1000mm、長さ3000mm程度が標準
  • 無充填のほかガラス繊維強化板や複合シートも供給
  • 吸湿が極めて低く熱膨張も小さいため、寸法安定性に優れる
  • 内部応力を低減する製造法により、高精度な機械加工が可能
  • 半導体製造装置部品など(ウエハ搬送用リング)や腐食性環境下の構造部品に用いられ、高価なPEEK樹脂の代替材料としても利用される
  • 主にPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂ペレットを押出機で溶融押出して板状押出し成形
  • 厚手板や高充填グレードでは粉末ブレンドを用いた圧縮成形(プレス)方式も採用されることがある
丸棒(ロッド)
  • 押出成形または成形圧縮された円柱状バー材
  • 直径は数mm〜100mm超程度まで各種(汎用グレードはφ6〜100mmが長さ1mまたは2mで提供)
  • 必要に応じ更に大径の押出・焼結棒もあり
  • 優れた機械的強度・耐熱・耐薬品性を備え、精密部品の切削素材として使用
  • 自動車(バルブ、ピストンリング、ギア、ベアリングなど)や電気電子(コネクタ、断熱筐体)、航空宇宙(シールリング、センサーハウジング)など過酷環境下の部品素材に適する
  • 高性能樹脂PEEKの廉価代替として採用されるケースも多い
  • 多くはペレットを用いた溶融押出による連続押出成形品
  • ガラス繊維強化など一部グレードや大径材ではPPS(ポリフェニレンサルファイド)粉とフィラーを型内で加熱圧縮する圧縮成形・ラム押出法も用いられる
チューブ(管材)
  • 厚肉リング状のパイプ素材(中空丸棒)
  • 内径約180mmから外径約362mm程度までラインナップ
  • それ以下の小径管は必要に応じて加工で対応
  • 大径のPPSリング素材は切削加工によりシールリング、ライナー、絶縁スリーブなどの中空部品に適用される
  • 素材から削り出すより歩留まりが良く、半導体製造装置のCMP用リングやポンプ・バルブ用ランタンリング等に利用される
  • PPSの高強度・耐薬品性により、金属代替の軽量部品にも向く
  • 厚肉管材は成形が難しいため、多くは専用金型での圧縮成形によって製造される(短冊圧縮焼結やリング状成形)
  • 一部は押出機による中空押出成形技術も利用される
フィルム・テープ
  • 数十µm程度の薄膜フィルム
  • 厚み25µm以上でUL94 VTM-0認定の自己消火性
  • 両面にPPSを用いた積層テープ製品もあり
  • ロール状に供給
  • 連続使用温度が高く(PETフィルムに比べ高温下で長期安定)電子・電気分野の絶縁材料に適用される
  • 高い寸法安定性と絶縁特性を持ち、モールド離型フィルムや電子部品用フィルムとして広く利用
  • リチウム電池絶縁、フレキシブル基板(FPC)、粘着テープ基材、モーター絶縁シート、ワイヤ被覆、フィルムコンデンサなど
  • 溶融したPPS樹脂をフィルム状に押出し、延伸装置で二軸延伸して製膜(延伸フィルム化)する
  • 東レが世界で初めて二軸延伸PPSフィルムの量産化に成功
  • 延伸により機械強度・耐熱性が向上し、高温環境でも変形しにくい安定したフィルムが得られる
繊維(ヤーン、不織布)
  • 長繊維(フィラメント糸)および短繊維(ステープル)形態で供給
  • 生成糸はオフホワイト色で、連続使用温度は約190℃
  • 極めて優れた耐熱・耐薬品・耐水解性を有し、高温雰囲気で使用されるフィルターバッグや工業用布材に最適
  • 酸性・塩基性雰囲気下でも物性を維持するため、石炭火力ボイラやごみ焼却炉の集じんフィルター布、製紙用フェルトなどでアラミド繊維では耐えられない環境に採用
  • 燃えにくく自己消火性であることから、難燃縫製糸や耐熱作業着資材にも用いられる
  • 熱可塑性樹脂である線状PPSを紡糸温度約300℃前後で溶融紡糸し、フィラメント糸を製造
  • 必要に応じ延伸・熱処理やステープルカットを施し繊維製品化する
  • 高分子の線状化により溶融紡糸が可能となった
  • 不織布は繊維をフェルト状に積層しニードルパンチや湿式抄紙+熱圧着で製造

まとめ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)はペレットや板材、丸棒、チューブ、フィルム、繊維など多様な形状で供給されます。用途に応じた形態選択により、設計自由度と加工効率が向上します。

PPS設計における留意点

PPS(ポリフェニレンサルファイド)製品設計における実務上の留意点

実際にPPS(ポリフェニレンサルファイド)部品を設計・採用する際に、設計者が心得ておくべきポイントを経験的視点からまとめます。PPS(ポリフェニレンサルファイド)は高性能ですが扱いが難しい面もあります。

以下のアドバイスを踏まえて設計することで、実務に役立つトラブル未然防止や性能最大化が期待できます。

肉厚設計と寸法精度|可能な限り壁厚は均一に設計

可能な限りPPS(ポリフェニレンサルファイド)の壁厚は均一に設計し、急激な肉厚変化を避けましょう。肉厚差が大きいと、成形時の収縮差による残留応力や歪みが生じ、割れや反りの原因になります。

やむを得ず厚みを変える場合は、緩やかなテーパーで繋ぎ、コアアウト(中抜き)で厚みを減らすなどの工夫をします。均一肉厚は樹脂流動を安定させ、一様な収縮で高い寸法精度が得られます。

コーナーのR(面取り)|鋭角な隅角は避ける

PPS(ポリフェニレンサルファイド)はノッチ(切欠き)に対して極めて敏感です。内部応力が集中すると容易にクラックが生じるため、設計段階で鋭角な隅角は避けて適切なフィレットRを付与してください。目安として、内角のフィレット半径は肉厚の1/2以上のRが推奨されます。

たとえば、厚み5mmならR3程度を目安にしてください。Rを付けることで応力集中係数が低減し、割れにくい丈夫な形状となります。

繊維強化材の配向|使用時の主応力を繊維配向方向にかける

ガラス繊維などで強化されたPPS(ポリフェニレンサルファイド)では、成形流れ方向と直角方向で機械強度が大きく異なります(流れ方向が強く、直角方向は弱い)。

そこで、ゲート配置や部品配置を工夫して、使用時の主応力が繊維配向方向(流れ方向)にかかるよう設計すると効果的です。逆に、繊維方向と直交する向きに大きな荷重がかかると割れやすくなるため、必要ならその部分の肉厚を増やして補強します。

このように、成形時の繊維配向を考慮した形状設計が、強化PPS(ポリフェニレンサルファイド)の強度を最大限引き出すコツです。

接着・溶着|接着剤による面接合が適する

PPS(ポリフェニレンサルファイド)部品同士、あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)と他部材を接合する場合、機械的固定による局所応力を避けるために接着剤による面接合を検討する価値があります。エポキシ系接着剤などで接着すれば、荷重が接合面全体に広がり、局所応力によるクラックリスクが低減します。接着面はラフニング(表面粗し)やプライマー処理で密着性を向上させましょう。

ただし接着剤選定は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の耐薬品性ゆえに限られる点に注意が必要です。溶着の場合、超音波溶着はPPS(ポリフェニレンサルファイド)でも適用可能ですが、接合部が急熱冷却で脆くなりやすいため、溶着設計は熟考してください

射出金型・成形条件への配慮|細かな金型細工も充填

PPS(ポリフェニレンサルファイド)成形品設計では、金型の高温対応と精密さを前提にしておきましょう。

金型材質は耐熱・耐摩耗の良い鋼が推奨されます。エジェクターピン周辺は、隙間からフラッシュが出ないようにクリアランスを最小にし、必要ならOリングなどで樹脂漏れを防ぐ工夫も重要です。また、適切なゲートサイズ(小さすぎると充填不良・溶融剪断過熱、大きすぎると残留ひけ)を設定し、十分なベンチレーションでガス抜きを行ってください。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は低粘度なので、細かな金型細工も充填しますが、その分ガス抜き不足だと焼けやヒケにつながります

高温環境でのクリアランス|環境規制物質を含まず扱いやすい

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は熱膨張が小さいとはいえ、ガラス転移点(約93℃)を超える高温域では線膨張が増大します。したがって、高温動作する機構部品では、作動温度での寸法変化を見込んでクリアランスを設定してください。

また、長期使用での熱老化は極めて少ないですが、連続使用温度を超える環境では徐々に強度低下するため、安全率を十分に取った設計とするべきです。

化学環境への適合|耐薬テストを実施すると安心

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は多くの薬品に耐えますが、避けるべき薬品(濃硫酸・発煙硫酸、塩素ガス、臭素蒸気など)があります。設計段階で対象環境中の化学物質を確認し、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の耐性限界を超えるものがないかチェックしましょう。

また、高温下の化学反応性についても考慮しましょう。たとえば、高温高湿+塩素系薬剤という状況では想定以上に劣化が早まる可能性があります。必要なら耐薬品テストを実施しておくと安心です。

加工と仕上げ|大量切削で歪むことがある

切削加工でPPS(ポリフェニレンサルファイド)部品を仕上げる場合、寸法公差と残留応力に留意してください。PPS(ポリフェニレンサルファイド)押出材は内部応力が残存していることがあり、大量切削で歪むことがあります。

購入時に焼鈍処理済みの低応力材料を選ぶか、「荒加工→アニール(熱時効)→仕上げ加工」のプロセスを取ると良い結果が得られます。

また工具摩耗も早いので、適宜刃物交換しながら加工精度を保ちます。PPS(ポリフェニレンサルファイド)は硬いため、タップ立てやネジ加工も難易度が高く、可能であれば成形時のネジ成形やインサート活用を検討すべきです。

まとめ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)の設計では、肉厚均一化・R付け・繊維配向・接着方法など、細部の配慮が重要です。成形条件や環境要因を考慮し、応力集中と変形を防ぐ設計が求められます。

PPSのまとめ

優れた耐熱性・耐薬品性・寸法安定性を活かし、高信頼な精密部品設計を実現するスーパーエンプラ

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は、240℃級の耐熱性と優れた耐薬品性・寸法安定性を兼ね備えたスーパーエンジニアリングプラスチックです。

高温・高湿・薬品環境下でも長期安定して使用できるため、自動車、電子部品、医療機器などで金属や他樹脂の代替材質として幅広く採用されています。一方で、脆性や高融点といった課題もあるので、設計段階での配慮が欠かせません。

PPS設計のポイント

  • 肉厚設計の均一化:急激な厚み変化を避け、残留応力や反りを抑制
  • R付けと応力分散:角部に適切なフィレットRを設け、クラックを防止
  • 繊維配向の考慮:強化材の流動方向に主応力を合わせ、強度を最大化
  • 高温・化学環境の想定:膨張・劣化・薬品反応を考慮した安全設計

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は設計と加工の工夫次第で、その高性能を余すことなく発揮できる材質です。用途や環境に応じた最適設計を行うことで、長寿命・高信頼の精密樹脂部品を実現できます。

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