超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)とは?物性の基本から実際の設計のポイントまで
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超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は「摺動や衝撃に強いが、高温高剛性は不得手」な材料です。他のエンジニアリングプラスチックや金属材料と比較検討しつつ、その優れた耐久特性を活かせる場面で採用すれば、装置の信頼性向上やメンテナンスコスト低減に大きく寄与するでしょう。
当記事では主に設計者の方向けに、物性、加工性、用途、類似材料との比較、設計上の留意点をまとめました。
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)とは?

超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は、極めて長い分子鎖(分子が鎖状につながった構造)からなる熱可塑性ポリエチレン樹脂です。名称のとおり分子量(分子の重さを表す値)が非常に高く、平均分子量がおよそ500万~900万にも達し、これは通常の高密度ポリエチレン(HDPE)の約10倍以上にも相当します。
分子鎖が極端に長いため鎖同士の絡み合いが強く、分子間で作用するファンデルワールス力(分子同士を引き合わせる引力)も大きくなります。その結果、引き裂きや衝撃に対する優れた抵抗力を示し、現在市販されている熱可塑性プラスチック中で最高レベルの靱性(衝撃強度)を持つ材料となっています。
無味無臭で非毒性であり、生体適合性や食品適合性も備えていることから、工業用途のみならず医療分野や食品分野でも広く利用されています。
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の分子構造は線状のポリエチレン鎖(–CH2–の繰り返し単位)が非常に長く連なったものです。単一の分子鎖の中にエチレンモノマー単位が10万個以上も連結しており、この超長鎖が結晶性と非結晶性の両相を構成する半結晶性ポリマー(分子が規則正しく配列した領域と分子が不規則に配列した領域が混在する高分子)となっています。
長大な分子鎖同士が絡み合ってネットワークを形成し、局所的な分子間力は小さいものの全体として強固に結びつくため、高荷重下でも分子鎖間のすべりに抵抗し得る高い強度と粘り強さを発揮します。いわば「極めて高密度に絡まった綿の束」のようなイメージで、引っ張りや衝撃に対して卓越した粘り(タフさ)を示します。
一方で、長すぎる分子鎖は溶融時の粘度を飛躍的に高めるため、融かしても流動しにくいという加工上の特徴も持ちます。この点については後述する加工性の節で説明します。
まとめ
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は極めて長い分子鎖を持ち、優れた衝撃強度と耐久性を備えた高性能樹脂です。医療・食品分野でも活用されています。
摩耗に強く、軽く、薬品に耐える特性
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は「軽くて軟らかいが非常にタフ」というユニークな物性を持っています。高強度エンジニアリングプラスチックのような剛性・耐熱性はありませんが、摩耗しにくさ・滑りやすさ・衝撃への強さ・化学的安定性といった点で際立った性能を示す材料です。
軽さ|比重0.94で軽量
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の比重は約0.94と水よりわずかに軽い値です。多くのエンジニアリングプラスチックが比重1以上である中、本材料は軽量であり、製品の軽量化に寄与します。
たとえばナイロン(PA6/6)の比重が1.14、ポリアセタール(POM)の比重が1.41、テフロン / バルフロン®(PTFE)の比重が2.15程度であることと比較しても、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の軽さが際立ちます。
強度と靱性|衝撃強度は最高レベル
引張強さ(引張強度)は38MPa程度で、ナイロンやポリアセタール(それぞれ約70~85MPa)に比べると低めですが、破断伸びは400~500%以上と非常に大きく、粘り強く伸びる性質があります。
硬度はショアDで67前後と比較的軟らかく、衝撃に対しては抜群に強くノッチ付きアイゾッド衝撃強さは通常のテストでは試験片が破壊しないほどです。これは、たとえば同条件下でナイロンが約30kJ/m2、テフロン / バルフロン®が約150kJ/m2程度であることと比較すると桁違いの値で、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)が熱可塑性樹脂(加熱すると軟化し冷却すると硬化する樹脂)中トップクラスの衝撃強度を持つことを示しています。
この優れた靱性により、摺動部材や緩衝材として使用しても割れや欠けが生じにくく、衝撃荷重を受ける用途に最適です。
耐摩耗性|炭素鋼の15倍の耐摩耗性
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)最大の長所の一つが摩耗に対する強さです。他のほとんどのプラスチックや金属を凌駕する耐摩耗・耐摩擦特性を持ち、たとえば摩耗試験では炭素鋼の15倍の耐摩耗寿命を示したという報告があります。
砂や粉体との摺動や繰り返し摩擦にも極めて強く、長期間の使用でも摩耗しにくいため、ギヤ、ベアリング、ライナーなどの長寿命化に大きく貢献します。実際、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は市販プラスチック中で最高のすべり摩耗抵抗を持つ材料の一つと評価されています。
摩擦係数(自己潤滑性)|摩擦係数0.1で優れる
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は表面エネルギーが低く、対摩擦特性にも優れています。静摩擦・動摩擦係数はいずれも非常に小さく(動摩擦係数は約0.1前後)、ナイロン(約0.3)やポリアセタール(約0.2~0.3)よりも低く、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE / テフロン / バルフロン®)に匹敵する低摩擦特性を示します。
付着しにくい非粘着性の表面でもあり、摩擦熱の発生が少なくギャロップ現象(機械部品の不規則な振動や異音が発生する現象)やスティックスリップ現象(静止摩擦と動摩擦の差により、止まる→滑る→止まるを繰り返す現象)も起きにくいことから、機械のスムーズな動作と省エネに寄与します。
耐薬品性|強酸化剤以外の薬品に強い
化学的には、ポリエチレンに共通する特性として薬品に非常に強い点が挙げられます。濃硫酸や濃硝酸などの強力な酸化性酸を除けば、強酸・強アルカリ、有機溶剤など幅広い薬品に侵されません。
たとえば、高密度ポリエチレン(HDPE)が持つ耐薬品性をそのまま継承しつつ、むしろ超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の方が耐環境ひび割れ性(応力亀裂に対する抵抗性)が高く改良されているケースもあります。腐食性の高い化学薬品槽、薬液ポンプやバルブの部品、ライニング材として用いても長期に安定した性能を示し、サビや腐食の心配がありません。
ただし強力な酸化剤(発煙硝酸、クロム酸、濃硫酸など)には侵されるため、これらの薬品とは直接長時間触れないよう留意が必要です。
吸水率|吸水率ほぼ0%
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は吸水性がきわめて低く、長時間水中や高湿下に置いてもほとんど水分を吸収しません。24時間浸漬時の吸水率は0%に近く、ナイロン6/6の約1.5%やポリアセタール(POM)の0.3%程度と比べても極めて低吸水です。
湿度変化による寸法変化や強度低下がなく、水や湿気の多い環境下でも寸法安定性に優れるというメリットがあります。水中で使用される軸受やスライド部品、食品機械の洗浄工程などにおいて、寸法変化や膨れを気にせず使えます。
耐候性|UVは劣化しやすい
ポリエチレン一般に共通する性質として、紫外線に対しては安定ではありません。無添加の超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)を屋外曝露すると、太陽光中のUVによって分子鎖が徐々に分解し、1年程度で表面にひび割れが生じたり脆化する可能性があります。
そのため屋外で長期間使用する設計では、カーボンブラックの添加(2~3%のカーボンブラックを練り込むことでUVを吸収し劣化防止)や紫外線安定剤の添加などによりUV耐性を付与したグレードを使用するのが一般的です。
たとえば、黒色の超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)板(カーボンブラック約2.5%含有)は、無添加品に比べて少なくとも5年以上の耐候寿命を持つとされています。
このように、適切な添剤を用いれば一定の耐候性も確保できますが、無着色で使用する場合は長期の直射日光暴露は避け、防護カバーを付ける等の配慮が必要です。
耐熱性|常用最高温度80℃程度
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の融点は約136℃と高密度ポリエチレン相当ですが、常用できる最高温度は80℃程度とされています。
特に長期間荷重がかかった状態で高温環境に置くと、クリープ(一定の荷重下で時間とともに徐々に変形が進行する現象)変形が大きくなるため、100℃近辺を超える条件での連続使用には適しません。
まとめ
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は軽量で高靱性・低摩耗・耐薬品性に優れ、幅広い環境下で安定した性能を発揮する樹脂ですが、高温や紫外線には注意が必要です。
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)における成形・加工上の注意点
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は、その極端に高い粘度ゆえに他の熱可塑性樹脂とは異なる加工上の注意点があります。成形方法や接合方法、機械加工性について解説します。
成形方法|射出成形困難で圧縮成形・押出成形が主流

一般的な熱可塑性樹脂のように射出成形機で溶融流動させて型に充填する、といった加工は超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)では困難です。分子鎖が長く絡み合いすぎて、溶融しても溶融粘度が非常に高く流動しないためです。そのため工業的には、圧縮成形(コンプレッション成形)や押出成形といった手法が採られます。
たとえば、粉末状の超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)原料を金型に入れて加熱加圧し、一体成形板や棒材を作る圧縮成形や、シリンダー内で加熱した樹脂をラム(ピストン)で押し出して連続的に棒や板を作るラム押出が代表的です。
これらの方法で作られた大判シート材・丸棒材・パイプ材などの加工用製品が市販されており、ユーザーは必要形状に加工して使用するのが一般的です。
また、フィルムや繊維を作る特殊な加工法としてゲル紡糸もあります。ゲル紡糸(ポリマーをゲル状態から延伸して繊維化する製造方法)によって高配向・高結晶化した超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)繊維(商品名:Dyneema®やSpectra®)が製造され、これは世界最強クラスの繊維として防弾用途などに利用されています。
溶接・接合|同種溶接は可能だが接着は困難
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は熱可塑性樹脂ですので、基本的には同種材料同士の熱溶着(溶接)が可能です。他のポリエチレン系樹脂と同様に、たとえば熱板を挟んだバット溶接やホットエアー(熱風)溶接、摩擦溶着(超音波溶着・振動溶着)などが適用できます。
実際、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)製ライナー板同士を現場で継ぎ合わせる際に、熱風溶接用の溶接棒(フィラーロッド)が用意されているほどで、市販の溶接棒も存在します。ただし誘電加熱を用いる高周波溶着は、材料の誘電正接が小さく発熱しにくいため適しません。
一方で、接着(のり付け)による異種材料との接合は非常に難しいことで知られています。ポリエチレンは表面エネルギーが低く(水を全く濡らさないほど)化学的に不活性なため、接着剤が濡れ広がらず物理的・化学的な密着力を得にくいのです。超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は特に、表面に極性基や反応基が無いため、通常のエポキシ系・シアノアクリレート系などの接着剤では接合強度を確保できません。
どうしても接着が必要な場合、表面処理(炎やコロナ放電で表面を活性化する、強酸でエッチングする等)を施した上で、ポリオレフィン用に開発されたプライマー付き接着剤(例:工業用アクリル系接着剤)を用いる必要があります。
しかし実務的には、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)部品を他の部材に取り付ける際は接着ではなく、機械的留め具(ボルト留め等)やかみ合わせ構造で固定することがほとんどです。
機械加工性|切削は容易だが変形・発熱には注意

超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は機械加工(切削加工)によって所望の形状に加工できます。半製品の板や棒から、フライス盤・旋盤などで削って部品を作るのが一般的な加工形態です。切削自体は容易で、金属加工用の工具でサクサク削れ、工具摩耗もほとんどありません。
ただし、寸法精度や仕上げに関していくつか注意点があります。
第一に、材料が柔らかく弾性変形しやすいため、加工作業中にたわみやビビリ振動が起きないようしっかり固定し、浅い切込みで徐々に削ることが推奨されます。
第二に、熱伝導率が低くないとはいえ樹脂なので、切削熱がこもると局所的に融けてしまう恐れがあります。刃物は十分鋭利にし低い切削抵抗で削れるようにするとともに、必要に応じエアブローや冷却剤で熱を逃がしながら加工します。切削条件は一般に低中速の切断速度と高い送りが適します。
また仕上げ寸法に関しては、加工中の発熱や後述するクリープ・熱膨張の影響で時間経過とともに寸法変化が起こり得ます。
高い精度が要求される場合、荒加工後に一晩放置して応力緩和させ、翌日に仕上げ削りを行うなどのステップが有効です。ネジ切り加工(タッピング)も可能ですが、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)はねじ山が潰れやすいため、負荷が高い締結には金属インサート埋め込みを検討すると良いでしょう。
総じて、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の機械加工は難しくはありませんが、「変形しやすく熱で融けやすい素材」であることを念頭に置いた加工条件の最適化が重要です。
まとめ
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は成形・接着に制約がある一方で、切削加工は容易です。変形や熱による影響を考慮した適切な加工設計が重要です。
用途:実際の活用例
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は上述の特性を活かし、幅広い分野で多彩な用途に使われています。以下のように表でまとめました。
| 分野 | 主な使用例 |
|---|---|
| 産業機械・搬送分野 |
|
| 食品機械・医薬品設備分野 |
|
| 医療機器分野 |
|
| 軍事・防護資材分野 |
|
まとめ
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は、その高耐久性や安全性を活かし、産業機械から医療・防護資材まで幅広い分野で実用化されています。
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)における設計上の留意点
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の取り扱いは金属とも他の樹脂とも勝手が異なるため、カタログデータのみで判断せず試作や検証を十分行うことが重要です。他材料との比較を踏まえつつ、設計上配慮すべきポイントを解説します。
代替材料との比較検討|低摩擦・高靱性が長所で剛性・耐熱が短所
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は万能材料ではないため、用途に応じて他のエンジニアリングプラスチックとの特性比較が不可欠です。
たとえば、ナイロンやポリアセタールは超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)より高い剛性・耐熱性を持ち、機械強度や耐疲労性が要求される部位では有利です。
一方でナイロンは吸湿による寸法変化が大きく、ポリアセタールは耐衝撃性で劣ります。テフロン / バルフロン®は超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)以上に摩擦係数が低く耐熱性も飛び抜けていますが、機械的強度や耐摩耗性では超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)に劣ります。
設計段階でなにを重視するか(摩擦低減か、強度か、耐熱か、寸法安定か等)によって材料選定は変わります。超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は「低摩擦・高靱性・耐摩耗」に優れた反面、「剛性・耐熱」に弱いという位置づけです。
熱膨張と寸法|熱膨張係数が大きく寸法設計要注意
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の線膨張係数(10⁻⁵ / °C)はプラスチック中でも大きい点に注意が必要です。およそ15にも達し、ナイロン6/6の約10やPOMの約11に比べて1.5倍近い熱膨張率です。
金属(鉄鋼で約1~1.2)と比べると桁違いに大きく、温度変化により部品寸法が大きく変動します。そのため精密なクリアランスが要求される箇所では、使用温度域での膨張差を織り込んだ設計(クリアランスの余裕やスリットの設置など)が不可欠です。
また、一度成形された超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)部品も、使用環境の温度によっては徐冷処理を行い内部応力を低減しておかないと、稼働中の温度上昇でわずかに歪む可能性があります。
クリープ特性|長時間荷重でクリープ変形しやすい
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は長時間荷重がかかるとクリープ変形が生じやすい材料です。クリープとは、一定の荷重下で時間とともに徐々に変形が進行する現象です。
たとえば締結部でボルト締めされていると、初期はしっかり締め付けられていても、時間とともに樹脂がゆっくり流動してボルト座面部が押し潰され、結果として締め付け力が低下する、といった現象が起こり得ます。高温環境ではこの傾向がさらに顕著になります。そのため、常時荷重のかかる構造部材には超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は不向きです。
どうしても使用する場合は、荷重負担を分散するよう座面を大きく取る、補強金具で挟み込む、あるいはクリープの少ない他材と組み合わせる(たとえば金属で骨格を作り摩耗する面だけ超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)ライナーとする)などの対策が必要です。
表面の傷|軟らかく傷つきやすい表面
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は軟らかいがゆえに表面に傷が付きやすい点にも注意しましょう。摺動面では、初期にならし運転により表面の微細な凸部が慣らされ、実接触面積が増えて摩擦係数が安定する場合があります。
まとめ
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は優れた特性を持つ一方で、熱膨張やクリープ、剛性の低さに配慮した設計が不可欠です。材料選定は用途に応じて慎重に行いましょう。
他材料(PA、POM、PTFE 等)との比較
類似用途で超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)と比較検討されやすい代表的な材料と性能比較してみましょう。設計者が材料選定を行う際の参考として、ナイロン、ポリアセタール、テフロン / バルフロン®の各特性と比較した表を示します。
| 材質名 | 比重(密度) | 引張強さ(MPa) | ヤング率(曲げ弾性率, MPa) | 硬度(ショアD) | 衝撃強さ(J/m) | 動摩擦 (対鋼) | 吸水率(%) | 連続使用温度(℃) | 線膨張係数(10-5/℃) | 耐摩耗・耐滑性 | 耐熱性 | 機械的強度・剛性 | 衝撃強さ | 寸法安定性(湿度・温度) | 加工性 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE) | 0.94 | 38 | 1100 | 64-67 | 破断せず | 0.10~0.22 | <0.01 | 80 | 15 | ◎ (極めて良好) | △(低い) | △(低い) | ◎(非常に高い) | 湿度◎、温度×(水で膨張せず、熱では膨張大) | 切削◎・成形×(半製品切削) |
| ナイロン(PA6/6) | 1.13-1.15 | 87 | 2800 | 80 | 27–30 | 0.15-0.40 | 1.50 | 120 | 10 | ○(良好だが潤滑推奨) | ○(中程度) | ◎(高い) | ○(中~高) | 湿度×、温度△(湿気で膨潤) | 射出◎・切削○ |
| ポリアセタール(POM-H) | 1.42 | 67-69 | 3100-3600 | 81 | 64-123 | 0.15-0.35 | 0.25-0.40 | 100前後 | 10-11 | ○(良好) | ○(中程度) | ◎(高い) | △(やや低い) | 湿度◎、温度○ | 射出◎・切削◎ |
| テフロン / バルフロン®(PTFE) | 2.13-2.20 | 20-35 | 530-580 | 50-55 | 150-160 | 0.10 | 0.01 | 260 | 10 | △(軟らかく摩耗しやすい) | ◎(極めて高い) | △(低い) | ○(中程度) | 湿度◎、温度◎ | 成形△(圧縮成形のみ) |
- 上記は代表値や一般的評価であり、各材料の具体的グレードにより数値は変動します。耐摩耗性評価は定性的な比較です。PAは66ナイロン、POMはホモポリマー系の標準グレード、(UHMW-PE)は未充填バージン材を想定しています。
表から読み取ると、(UHMW-PE)は低摩擦・高靱性・高耐摩耗で突出している一方で、強度・剛性・耐熱ではPAやPOMに譲ります。
またテフロン / バルフロン®とはお互い長所短所が逆で、テフロン / バルフロン®は超低摩擦・高耐熱・耐薬品だが機械的な強度や耐摩耗で超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)に劣ります。特に動荷重や磨耗が問題となる用途では、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)に軍配が上がり、たとえばテフロンは超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の1/5程度の荷重しか支えられず、摩耗もしやすいため、同じ摺動用途でも高温条件以外は超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の方が長寿命です。
逆に、高温下(200℃以上)では超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は使用できず、テフロン / バルフロン®の独擅場となります。このように、用途の条件に応じて適材適所で材料を使い分けることが重要です。
まとめ
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は低摩擦・高靱性・耐摩耗性で優れていますが、剛性や耐熱性ではPAやPOMに劣ります。用途に応じて各材料の特性を見極め、最適な選定が重要です。
実際の設計経験者から見た超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の設計ポイント
理論的な物性値やカタログスペックだけでは見えてこない、実際の設計・運用経験から得られた知見をもとに、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)を活用するための実践的なポイントを解説します。
設計初期段階では高衝撃荷重と無潤滑条件で60℃以下なら使用検討
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)採用の成否は、設計初期段階での適用可否判断にかかっています。経験上、摺動・摩耗が主要な課題であり、使用温度が常温から60℃程度まで、高い衝撃荷重や振動環境があり、潤滑剤の使用が困難または避けたい用途で真価を発揮します。また軽量化が重要な要素である場合にも適しています。
一方で注意が必要なのは、高精度な寸法公差が要求される用途(±0.1mm以下など)、常時高荷重が作用する構造部材、80℃を超える高温環境、外観品質が重要視される用途です。これらの条件では他材料との比較検討を慎重に行う必要があります。
実際の設計では、これらの条件を総合的に評価し、必ず他材料との比較検討を行うことが重要です。単純に「摩擦が少ない」「摩耗に強い」という理由だけで超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)を選択すると、後々の設計変更や性能不足につながるリスクがあります。
熱膨張を考慮した設計が必要
カタログ値では線膨張係数15×10⁻⁵/℃とされていますが、実際の設計では安全率を見込んだ余裕が必要です。
たとえば1,000mm長の部品が40℃上昇する場合、理論膨張量は0.8mmとなりますが、実際の設計では1.0~1.2mm程度の余裕を確保することが推奨されます。
長尺部品では中央固定・両端フリーの支持方法を採用し、ガイド溝やスリットで膨張逃げを設ける設計が有効です。金属フレームとの組み合わせでは、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)側を長穴加工として熱膨張差を吸収できるようにします。
なじみを考慮しクリアランスの再測定を奨励
摺動部のクリアランス設定では、理論計算だけでなく実運用での「なじみ」現象を考慮する必要があります。新品時は理論計算値に20~30%の余裕を加えたクリアランスを設定しますが、運転初期の100時間程度で表面の微細凸部が摩耗により平滑化され、その後定常運転でクリアランスが安定化します。
実際の経験では、運転開始から200~300時間後にクリアランスを再測定し、必要に応じて調整を行うことが推奨されます。この初期なじみ期間を考慮せずに設計すると、運転初期の騒音や振動、あるいは逆に緩すぎるクリアランスによる性能低下を招く可能性があります。
5,000時間を目安としたメンテナンス設計
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の長寿命化には、適切なメンテナンス設計が不可欠です。摩耗量測定ポイントの設定、交換作業性を考慮した分割構造、予備品の形状・在庫管理方法などを設計段階から検討しておくことが重要です。
多くの現場では摩耗データを蓄積して交換時期を予測していますが、一般的に初期摩耗期(500時間まで)では急速摩耗、定常摩耗期(500~5,000時間)では安定した摩耗速度、加速摩耗期(5,000時間以降)では摩耗速度が増加する傾向があります。このデータを活用することで、計画的なメンテナンスが可能になります。
特に摩耗部のみの限定使用でコスト削減を図る
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は高価な材料のため、適用箇所の最小化が重要です。全体を超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)にするのではなく、摩耗部のみに限定する部分適用設計、交換可能な薄板構造のライナー方式、摺動部のみ超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)を挿入するインサート方式などが有効です。
また、汎用サイズの採用、切り出し残材の有効活用、複数装置での共通部品化による標準化で量産効果を得ることも重要なコスト削減策となります。
加工後応力除去と密封構造でよくある設計の失敗をフォロー
実際の現場で発生した問題事例から学ぶべきポイントがあります。加工直後は寸法が合格していても数日後に膨張する問題では、加工時の内部応力未除去が原因であり、応力除去工程の追加により解決できます。
予想より早い摩耗進行については、潤滑不足と異物混入が主要因であり、密封構造とグリース給脂ポイント追加が対策となります。スティックスリップによる異音発生では、表面粗さと荷重条件の不適合が原因で、表面仕上げ改善と荷重分散により改善可能です。
まとめ
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の活用には、温度や荷重条件、摩耗特性を踏まえた設計が不可欠です。設計初期からの適用判断と現場視点での配慮が、長寿命化とコスト最適化の鍵となります。
優れた耐摩耗性・衝撃吸収性を活かし、装置の寿命延長と信頼性向上に貢献する材料
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)は極めて長い分子鎖を持ち、樹脂の中でも最高レベルの靱性と耐摩耗性を誇ります。軽量かつ化学的にも安定しており、医療・食品・機械・防護資材など幅広い分野で活用されています。一方で、高温や高荷重下での使用には注意が必要なため、材料特性を正しく理解し、設計に反映することが重要です。
UHMW-PE設計のポイント
- 高温や高荷重環境には不向き:常用温度は80℃以下が目安。熱膨張やクリープを考慮した設計が必要
- 寸法精度は熱変形や初期摩耗を考慮:特に摺動部は「なじみ現象」を見越したクリアランス設計が推奨
- 加工は切削中心・接着は困難:機械加工は容易だが、接着には不向きで溶接や機械固定が基本
- コスト対策として部分適用が有効:高価な素材のため、摩耗部のみ使用するなど部分的な活用でコストを抑制
設計初期の判断が材料選定のカギです。使用条件や他材との比較を踏まえ、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)の特性を最大限に活かした設計が、性能とコストの最適化につながります。
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