QuickValueわかりやすい物性特性ガイド
専門家(技術士)監修チャット形式!樹脂材の物性用語
物性とは材料が持つ物理的・化学的な性質のこと。比重・引張強さ・ヤング率・耐候性など樹脂の物性用語16項目を、技術士監修のチャット形式と図解でわかりやすく解説。プラスチックの材質選定に役立つ入門ガイドです。
物性とは?なぜ材質選定に必要?
物性とは、材料が持つ物理的・化学的な性質のことで、密度・強度・剛性・耐熱性・耐薬品性などが該当します。樹脂(プラスチック)は種類ごとにこうした物性が大きく異なるため、同じ形状の部品でも材質が変われば性能は大きく変わります。使用環境に合わせて物性を比較することが、材質選定で失敗しないための第一歩です。
本ガイドの監修者
-
プラスチック製品設計の専門家 技術士 田口 宏之
- 技術士(機械部門)
- 博士(情報工学)
-
産業機械設計の専門家 技術士 小畠 祥平
- 技術士(機械部門)
- 一級技能士(機械製図、機械組立仕上げ)
本ページでは、比重や引張強さ、ヤング率、荷重たわみ温度など、材質選定に欠かせない物性用語16項目を、質問役と専門家役のチャット形式・図解付きで解説します。物性用語に不慣れな設計・調達担当者の方でも読み進めやすい構成です。用語を理解したら、材質選定レーダーチャートで実際の物性値を比較してみてください。
比重とは?
樹脂って金属材料に比べてすごく軽いですよね。どれくらい違うんですか?
SS400のような鉄鋼材料と比べると、樹脂の重さは約8分の1ぐらいだよ。このグラフを見てごらん。

ほんとだ!軽いイメージのあるアルミニウムと比べても、かなり軽いんですね!
そうだね。材料の重さは密度や比重で表すんだけど、鈴木さんはこの2つの違いは分かるかな?
ええと、密度は質量を体積で割った値ですよね。比重はどう違うんですか?
比重は、材料の密度を水の密度で割った比率のことなんだ。水より重い材料は比重が1より大きくなり、軽い材料は1より小さくなるよ。
なるほど!水の重さと比べるのでわかりやすいですね。
比重が1より小さい樹脂は水に浮き、1より大きい樹脂は水に沈むよ。だから、水中に入れて浮くか沈むかを確認することで、比重が1より大きいか小さいかがわかる。写真は水に入れたポリスチレン(PS)製のプラモデル部品。PSは比重が1.05ぐらいだから水に沈んでいるね。

樹脂は外観だけでは何を使っているか分かりにくけど、これなら簡単に絞り込みができますね。
そうだね。水に浮く軽い樹脂にはポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)があるよ。
PPやPEって軽いんですね! 自動車でたくさんのPPが使われているって聞いたことがありますけど、この軽さも採用される一つの要因なんですか?
その通りだよ。自動車は1gでも軽くして燃費をよくしたいからね。あと、軽い樹脂はコストが安くなるというのも重要な視点だよ。図のように同じ体積の樹脂部品では、材料単価(kg単価)が同じでも比重が小さい方が材料コストが安くなるんだ。

なるほど! コスト面では材料単価ばかり気にしていましたけど、比重を考慮しないと意味ないですね。
田口先生の
専門家メモ
- 密度の単位は一般にg/cm³またはkg/m³を使用する。
- 水の密度はほぼ1g/cm³のため、単位をg/cm³で考えておけば数値は「密度=比重」として扱うことができる。
- 水に入れて樹脂を判別するときは、気泡がついていると比重が小さくなってしまうので注意が必要。
- 正確な比重の値は比重計で測定可能。
引張強さとは?
先生、樹脂の物性表には機械特性として引張強さと曲げ強さがよく載っていますよね。この2つはどう違うんですか?
文字通り、引張強さは材料を両端から引っ張った時に耐えられる強さ、曲げ強さは曲げた時に耐えられる強さだよ。それぞれ引張荷重試験と曲げ荷重試験で測定するんだ。

なるほど。でも、金属材料では曲げ強さってあまり見ない気がするんですが?
鋭いね。金属材料は一般に引張荷重試験しかやらないからね。でも、樹脂は引張と曲げの両方を測定するのが普通なんだよ。
金属と樹脂で違うんですね!どうして樹脂は曲げ荷重試験もやるんですか?
曲げ荷重試験は引張荷重試験に比べて簡単で、装置も小型で済むからだよ。短冊状の試験片で手軽にできるから、工場での品質管理なんかに使いやすいんだ。樹脂なら短冊状の試験片は簡単に準備できるしね。
じゃあ、設計で強度計算するときには、簡単に測定できる曲げ強さを使えばいいですね。
いや、曲げ強さは試験の性質上、見かけの数値が実際の材料の強さよりも大きな値になる傾向があるから、設計では精度の高い引張強さを使うべきなんだよ。
そうなんですね。設計では引張強さを使うって覚えておきます。でも先生、そもそも樹脂は強度が低く、すぐに壊れそうなイメージがあります…。
確かに樹脂は金属材料と比べると、とても弱いよ。グラフを見ると分かるように、種類によっては鉄鋼材料の1/10ぐらいの強度しかないんだ。

こんなに弱いんじゃ、樹脂はなかなか使いにくいですね。
実はそんなことはないんだよ。重さあたりの引張強さ、つまり比強度(=引張強さ/比重)で比べると、汎用的な鉄鋼材料(SS400)とそんなに変わらない樹脂も多いんだ。

なるほど!だから自動車や機械など、強度が必要な部品でも樹脂がたくさん使われているんですね。
田口先生の
専門家メモ
- 引張荷重試験のJIS規格(JIS K7161-1)では、引張強さ(または強さ)は「試験中に観察される最初の最大応力」と定義されており、材料によっては引張強さは引張降伏応力あるいは引張破壊応力と同じ値となる。
- 曲げ荷重試験のJIS規格(JIS K7171)には、「この試験方法は、設計パラメータを求めることに適していない」との記載がある。設計では基本的に引張特性を使うこと。
- ガラス繊維などで強化した樹脂では、鉄鋼材料を遥かに上回る比強度を持つ材料も多い。
引張弾性率(ヤング率)とは?
先生、材料の変形のしにくさを表す指標がヤング率ですよね?樹脂の物性表にはどこを探してもヤング率が見当たらないのですが?
樹脂の物性表では引張弾性率という指標で載っているよ。同じ指標だけど、樹脂では引張弾性率という用語が使われるんだ。
そうなんですね。樹脂は金属材料に比べて変形しやすいイメージがあります。
そうだね。樹脂の引張弾性率は鉄鋼材料の約1/100しかないんだ。だから、同じ形状の部材を同じ力で引っ張ると、変形量が約100倍にもなるんだよ。

100倍も違うんですか!?
そう。樹脂の引張強さは鉄鋼材料の約1/10。つまり、強度面よりも剛性面(変形のしにくさ)の方がはるかに性能が低いんだよ。だから、リブなどをうまく使って変形しにくい製品形状にする必要があるね。そのためには材料力学をうまく活用しないといけないよ。
分かりました。あと、樹脂の物性表には曲げ弾性率というのもありますよね。これは引張弾性率とどう違うんですか?
よく気づいたね。樹脂では引張荷重試験で測定したヤング率を引張弾性率、曲げ荷重試験で測定したものを曲げ弾性率として区別しているんだよ。
なるほど。同じ樹脂なら、引張弾性率と曲げ弾性率は同じ値になるんですか?
理想的な条件なら同じになるはずなんだけど、実際には同じ樹脂でも少し違う値になることが多いんだ。
えっ、そうなんですか。じゃあ、設計ではどちらを使えばいいんですか?
一般に引張荷重試験の方が精度が高いので、基本的には引張弾性率を使うと覚えておけばいいよ。でも、曲げ弾性率しか入手できない場合もあるよね。その場合でも、引張弾性率と曲げ弾性率は比較的近い値になることが多いので、曲げ弾性率を使っても問題ないケースが多いよ。ただ、弾性率ではなく強さの方が注意が必要だ。引張強さと曲げ強さを比べると、曲げ強さの方が1.5倍程度大きい値として計測されることがあるんだ。

なぜ、弾性率は差が小さくて、強さは差が大きくなるんですか?
弾性率はごく小さな変形のときの値を測定するので、理想的な状態に近くて差が出にくいんだ。一方、強さは材料が壊れるほどの大きく変形を伴う状態の値だから、理想的な状態からずれて差が大きくなるんだよ。
変形の大きさで、理想状態からのズレが変わるからなんですね。よく分かりました!
田口先生の
専門家メモ
- ヤング率は縦弾性係数ともいう。
- 引張弾性率は、引張荷重試験で測定された応力ーひずみ曲線の直線部分(微小変形時)の傾きから計算する。
- 樹脂は引張強さが鉄鋼材料の約1/10、引張弾性率が約1/100と覚えておくと便利。
- 比強度(重さあたりの強度)では樹脂と鉄鋼材料に大きな差はないが、比剛性(重さあたりの弾性率)では、樹脂の方がかなり劣る。
破断伸びとは?
先生、材料の破断伸びって、材料がどれくらい伸びるかを示しているんですか?
その通り。厳密にいうと伸びではなく、引張荷重試験で破断するときの変形の割合(ひずみ)のことを示しているんだ。まあ、実務では単に伸びと呼ぶことも多いね。
樹脂の物性表を見ていると、(引張)破壊ひずみや(引張)破壊呼びひずみと書いてあるようです。
よく気づいたね。それが樹脂での正式な呼び方なんだよ。
伸びが大きい材料と小さい材料では、応力ーひずみ曲線の形も変わるんでしょうか?
全然違うよ。伸びが大きい材料は横に長く、小さい材料は短くなるんだ。

伸びが大きい材料には、どんな特徴があるんですか?
ねばり強いのが最大の特徴だね。大きく変形しても簡単には割れず、衝撃に強い材料が多いんだ。延性材料と呼ばれるよ。
具体的にはどんな材料があるんですか?
ポリカーボネート(PC)やポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが代表例だね。PCは高い透明性と耐衝撃性を併せ持つ数少ない材料の一つで、警察が持っている透明な防護盾に使われているよ。
伸びが小さい材料を使うときは注意が必要ですよね。
そうだね。アクリル樹脂(PMMA)やポリスチレン(PS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などは脆い(もろい)性質があって、衝撃で割れやすいから用途には注意が必要だよ。このような材料は脆性材料と呼ばれるよ。
伸びが大きい材料を使っておけば、ねばり強いから衝撃などで壊れる心配はないですね。
そうでもないんだよ。樹脂の種類によっては低温下で伸びがなくなるものもあるよ。また、紫外線や熱などで劣化すると、伸びがなくなって脆くなってしまうんだ。

PPはよく伸びるイメージがあったので、こんな壊れ方をするとは・・・。驚きました。
そうだね。樹脂を使う場合は、伸びの変化にも注意して壊れない製品にしないといけないよ。
田口先生の
専門家メモ
- 樹脂の物性表では、JIS 7161-1に基づき、降伏点があるものは(引張)破壊呼びひずみ、降伏点がないものは(引張)破壊ひずみで記載されることが多い。
- ガラス繊維などで強化すると弾性率や強さが大きく向上するが、伸びが小さくなるため、衝撃に弱くなることがある。
- 樹脂は周囲の温度によって、特性が大きく変化する。一般に温度が上がると伸びは大きく、なり、温度が下がると伸びは小さくなる。
衝撃強さ(シャルピー衝撃値)とは?
先生、樹脂の衝撃強さと引張強さは違うんですか?
衝撃強さは、製品を落としたりぶつけたりした時の、瞬間的な力に対する壊れにくさの性質のことだよ。ゆっくり力を加える引張強さとは別の特性なんだ。
力を加えるスピードが違うと、強さも変わるんですか?
その通り。樹脂は力をかけるスピードで特性が変わる性質があるから、ゆっくり引っ張る試験だけでは衝撃への強さはわからないんだよ。
なるほど!じゃあ、衝撃強さはどうやって測るんですか?
代表的な指標にシャルピー衝撃強さやアイゾット衝撃強さがあるよ。試験片にハンマーを衝突させて、試験片が吸収できるエネルギー量を測定するんだ。たくさんのエネルギーを吸収できる=衝撃強さが大きいと言えるよ。

ハンマーをぶつけて評価するんですね!物性表を見ると「ノッチ有」「ノッチ無し」と書かれていることありますが、これは何ですか?
ノッチというのは、試験片に入れた切れ込みのことだよ。ノッチがあると力が集中して壊れやすくなるんだ。ノッチを入れて試験をする場合と、入れずに試験をする場合があるので、樹脂同士を比較する際には、ノッチ「有・無」の条件を揃えて比較することが重要だよ。
衝撃強さのデータが入手できないこともよくあるのですが、他に衝撃強さを知る方法はないんですか?
引張荷重試験の破断伸びの大きさや、応力ーひずみ曲線が囲む面積からでも、衝撃への強さを評価できるよ。
囲む面積ですか?面積が大きいと衝撃に強くなるんですか?
面積が大きいほど、壊れるまでに多くのエネルギーを吸収できるねばり強い材料だと言えるんだ。引張強さが大きくて、よく伸びる材料ほど面積が大きくなるよ。

なるほど!シャルピー衝撃強さの値だけでなく、破断伸びやグラフの面積からでも推測できるんですね。
その通り。ただし、実際の製品の衝撃強さは、温度や吸水率、分子量、製品の形状、さらには衝撃の加わり方など、様々な要因で変化するから、多角的な側面から検討する必要があるんだ。
一つのデータだけを鵜呑みにせず、使う環境や製品の形状も合わせて総合的に判断するんですね!
田口先生の
専門家メモ
- ポリカーボネート(PC)のように衝撃に強い材料でも、ノッチがあると応力集中により衝撃強さが大きく低下する性質を持つ材料もある。できるだけ応力が集中しないような形状にすること。
- 樹脂の種類によって、冬場の低温下で急激に脆くなり、衝撃強さを失うものがある。
- 樹脂が吸水すると、伸びが大きくなるため、衝撃に強くなることが多い。
- 熱や紫外線などで劣化すると、伸びが低下するため、衝撃強さも大きく低下する。
レーダーチャートの見方
衝撃強さのレーダーチャートは、引張強さのように具体的な数値ではなく、5段階評価の「Rank」という目安を提示している。これは、衝撃強さが温度や吸水率、分子量、製品の形状、衝撃の加わり方など、様々な要因で変化するため、単一の数値で表すことが難しいからである。実際の材料選定では、材料グレードや使用環境条件などを加味して十分な評価を行う必要がある。
吸水率とは?
樹脂って水をはじくイメージがあるんですが、物性表に吸水率という項目があるのはなぜですか?
樹脂の多くは水をはじくけれど、種類によっては水分を吸収するものがあるんだ。吸水率は、一定の条件で材料がどれくらい水を吸うかを割合(%)で示した数値だよ。
水分を含むと、樹脂の性質はどう変わるんですか?
おせんべいをイメージするとわかりやすいよ。よく乾燥したおせんべいは硬くて強いけど、叩くとバリっと割れるよね。でも、水分を含んだ煎餅はフニャッと柔らかくなる代わりに、叩いても割れにくくなる。
ぬれせんべいみたいな感じですね。よくわかります。
ぬれせんべいというのはよい例えだね!応力ーひずみ曲線の変化を見るとよくわかると思うよ。吸水すると引張強さや引張弾性率が低下して柔らかくなるけど、、逆に破断伸びが大きくなって割れにくくなるんだ。

ちなみに、どんな樹脂が水を吸いやすいんですか?
代表格はナイロン系(PA)の樹脂だね。他の樹脂と比べて桁違いに水を吸いやすから、使う時は十分な注意が必要だよ。逆に、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などはほとんど水を吸わないから、水に接する用途でも使いやすいんだ。

吸水の影響は、応力ーひずみ曲線が変化することを頭に入れておけば、他に注意することはないですか?
いやいや、実は他にも色々と影響があるんだ。まず、水を吸った分だけ寸法が大きくなったり、重くなったりするよ。可動部品だと、干渉してトラブルを起こすことがある。また、吸水すると電気を流しやすくなるから、電気製品に使う場合は、漏電や火災のトラブルにつながる恐れがあるんだ。
強度や寸法が変わったり、電気を流しやすくなったり、設計上で要注意ですね…。
その通り。ポリアミド(ナイロン)系のプラスチックの物性表には、完全に乾いた「乾燥時」のデータと、水を吸った「吸水時」のデータの両方が載っていることが多いんだ。実際の使用環境に合わせてデータを見極めることが大切だよ。
田口先生の
専門家メモ
- 吸水率は温度や湿度、水との接触時間、試験片の厚みによって結果が大きく変動する。樹脂同士を比較する際は、試験条件(例:23℃の水に24時間浸漬など)が揃っているか確認することが重要。
- 吸水によって、強度や弾性率は低下するが、伸びは大きくなる。この性質を活かして、吸水させた後に部材の曲げ加工やプレス加工などを行うことがある。
- 吸水しやすい樹脂は、成形前のペレットの状態でも空気中の水分を吸収する。そのまま成形すると内部に気泡(ボイド)が発生したり、外観不良が生じたりするため、成形前に十分な予備乾燥を行うことが鉄則。
線膨張係数とは?
樹脂の物性表に線膨張係数ってありますよね。温度の変化で材料が伸縮する割合のことだと思いますが、設計のときにこれって結構重要なんですか?
お、よく知っているね。温度が上がると伸びて、下がると縮む度合いのことだね。実は樹脂の設計において、この特性は超重要なんだ。
そうなんですか?温度で部品のサイズが変わるといっても、ほんのわずかな違いですよね?
例えば、長さ100mmの部品の温度が10℃上がったときに伸びる量は、「線膨張係数(α) × 10℃ × 100mm」で計算できる。実は、樹脂は金属材料に比べてこの伸びが桁違いに大きいんだ。
え、そんなに違うんですか?
そう。例えば鉄鋼材料(SS400)の伸びが0.012mmだとしたら、樹脂(PP)は0.11mm。なんと約10倍も変形するんだよ。

10倍も!それだけ大きく伸縮すると、製品の中で何か問題が起きそう・・・。
部品が単独で自由に動けるならいいんだけど、樹脂と金属の部品をネジや接着剤などでガッチリ固定している製品では、大きなトラブルになりやすいんだ。
あ!樹脂は大きく伸びようとするのに、金属材料のほうはあまり伸びないから…どうなるんですか?
互いに引っ張り合ったり押し合ったりして、製品が大きく反ったり、クラックが入ったりするんだよ。

板金に樹脂部品を固定する構造はよくあるので、これは心配です。
そうだね。しかも、機器のON/OFFや昼夜の寒暖差で温度変化が繰り返されると、この変形が何度もかかって熱疲労破壊を起こすこともあるから厄介なんだ。
何か対策はありますか?
設計上の工夫としては、完全に固定せず、伸縮を逃がせる構造にするのが望ましいね。材料の工夫なら、ガラス繊維などで強化すると線膨張係数が下がって金属材料に近づくよ。ただ、繊維の向きによって伸びやすさが変わる「異方性」が生じるから、そこには注意が必要だね。
田口先生の
専門家メモ
- 線膨張係数の定義:「材料の温度が1℃変化したときの単位長さあたりの伸縮量」。
- 金属材料では「×10-6/℃」、樹脂では「10-5/℃」の値を使うことが一般的であるため、金属材料と樹脂の線膨張係数を比較する際は、単位を間違えやすいので注意すること。
- 線膨張係数が大きいということは、室温のわずかな変化で寸法が変動することを意味する。寸法精度がシビアな製品では、測定時の基準温度を明確に取り決めておく必要がある。
体積抵抗率とは?
樹脂の物性表にある体積抵抗率って何ですか?電気に関係する数値ですよね?
そうだね。材料の内部を電気がどれくらい流れにくいかを示す値のことだよ。ちなみに、材料の表面を流れる電気に対する値は表面抵抗率と呼んで区別しているんだ。

樹脂は電気を通さない絶縁体だから、この抵抗値はすごく大きいんですよね?
その通り。ほとんどの樹脂は、この抵抗値が大きいものばかりなんだ。だから、電線の被覆材料や半導体封止材、コネクタなど、電気が流れてほしくない部位にたくさん使われているよ。
それじゃあ、樹脂を使えば漏電やショートの心配は全くないってことですね!
それが、そうではないんだよ。樹脂の電気絶縁性は、使う環境や製造の管理状態などによって低下してしまうことがあるんだ。
え!電気を通さないはずの樹脂が、電気を通しやすくなっちゃうことがあるんですか?
うん。温度が高くなったり、材料の劣化が進行したりすると抵抗率が下がるんだ。あと、ナイロン系(PA)樹脂のように水を吸いやすい材料は、吸水すると絶縁性が落ちてしまうんだよ。
吸水すると柔らかくなるイメージはありましたが、電気特性にも悪影響を及ぼすんですね!
そうなんだ。それに、電気が流れにくい(抵抗率が高い)ということは、逆にいうと静電気が逃げ場を失って溜まりやすい(帯電しやすい)ということでもあるんだ。
あ!下敷きで髪の毛が逆立つみたいになるってことですね。ホコリがくっつきやすくなりそうですね。
まさにそれ!倉庫に保管している製品がホコリを吸着して外観を損ねるトラブルがよくあるよ。また、静電気の影響で電子機器の誤作動や故障を引き起こすこともあるんだ。だから、帯電防止剤などを混ぜて、あえて電気を少し通しやすくするなどの対策が必要になることもあるんだよ。
樹脂の電気特性がこんなに大事だとは!まだまだ勉強しないと。
田口先生の
専門家メモ
- 体積抵抗率の単位は樹脂の場合、一般に「Ω・cm(オーム・センチメートル)」が使われる。
- 電気の流れにくさを示す指標には、絶縁破壊の強さもある。これは、材料の厚み方向の絶縁破壊時の電圧を示す。
- その他の樹脂の重要な電気特性として、比誘電率と誘電正接がある。比誘電率は材料中に蓄えることができる電気的エネルギーの大きさを示す指標、誘電正接は材料に高周波が加えられたとき、熱として失われる電気的エネルギーの大きさを示す指標。
連続使用温度とは?
先生、この樹脂のカタログに「連続使用温度 80℃」とあります。これなら、80℃以下の環境で使う製品なら絶対に壊れないと判断していいんですよね?
おっと、それは樹脂設計でよくある「危険な勘違い」だよ。連続使用温度は、どんな条件でも使える温度という意味ではないんだ。
え、そうなんですか!?じゃあ、この温度は一体何を意味しているんですか?
樹脂を長期間使用したときに、強度や剛性、電気特性といった性能が大きく損なわれずに維持できる目安の温度のことだよ。「この温度以下なら絶対に壊れない」という保証値ではなく、あくまで参考値に過ぎないんだ。
あくまで参考値…。どうして絶対的な基準を作らないんですか?
なぜなら、図で示すように製品によってどれくらいの性能を維持すべきかという要求事項が全く違うからだよ。それに、連続使用温度は単なる熱への強さだけでなく、長期間高温にさらされることによる劣化の進行や、力がかかり続けることで変形が進むクリープなど、色々な特性が複雑に絡み合って決まるんだ。そう簡単に絶対的な基準は作れないよ。

あ!図を見ると、「80℃で5年間使った場合」、どちらの製品も劣化で強度が落ちていますが、要求強度のハードルが低い「軽荷重のカバー」は合格」だけど、「荷重のかかる構造部品」は不合格になっていますね!
まさにその通り!「材料が何度まで耐えられるか」ではなく、「その温度で製品が長期に渡って要求を満たせるか」が本質なんだ。だから、この数値を誰が、どういう基準で定義したかによって、カタログの数値がバラバラになることもある。
ただ、そうすると、現実的に、何℃まで使えるかは簡単にはわからないですね。
細かく要件を定めて、長期使用における使用温度を示している指標もあるよ。代表的なものがUL規格(UL746B)が定めたRTI(相対温度指数)だよ。これは10万時間(約11.4年)経過後、初期の特性が50%に低下するときの温度を示しているんだ。初期の強度が50MPaだとすると、10万時間経過後に25MPaになるような温度ということだよ。

PA6(ナイロン6)はよく使いますが、90℃でずっと使っていると、10万時間で強度が半分になるということですね。強度が半分になっても余裕があるのであれば、この温度でも使えるということですよね。
そうだね。ただ、表のRTIはあくまで引張強さだけを示しているので、耐衝撃性や電気特性など、その他の特性については、この値からはわからないよ。
なるほど。連続使用温度って奥が深いですね。
田口先生の
専門家メモ
- 定義によって連続使用温度の値は異なるが、樹脂同士の比較、樹脂選定の初期スクリーニングに活用できる。
- ULとはアメリカの民間規格。UL746Bでは引張強さの他に、衝撃強さ、電気絶縁性のRTIも評価する。
- 樹脂は劣化、クリープなどの影響により、時間経過で特性が低下するものが多い。カタログ値だけでなく、自社製品の目標耐用年数と使用環境条件から逆算して評価することが重要である。
荷重たわみ温度とは?
先生、物性表に荷重たわみ温度という項目がありました。同じく物性表にある連続使用温度とは違うんですか?
見ている現象がかなり違う指標だよ。連続使用温度が樹脂の「長期的な耐熱性」の目安であるのに対して、荷重たわみ温度は「短期的な耐熱性」を示す指標なんだ。
短期的な耐熱性…? 具体的にはどうやって測るんですか?
樹脂製の試験片に一定の曲げ荷重をかけながら、周囲の温度を徐々に上げていくんだ。そして、樹脂が熱で柔らかくなって、規定の寸法までたわんだ時の温度を記録するんだよ。

なるほど!熱と力が同時に加わった時に、決められた量まで変形する温度を見ているんですね。でも、これって実務の設計でどういう意味があるんですか?
いい質問だね。設計する時って、普通は常温での硬さ(ヤング率)を使って計算して、部品の厚みやリブの形状を決めるよね?
はい、物性表のヤング率(引張弾性率)などを見て、変形が許容範囲に収まるように設計します。
ところが樹脂は、温度が上がると徐々に硬さが低下していくんだ。荷重たわみ温度は、まさにその「元々持っていた硬さが、規定の割合まで低下してしまう温度」を示しているんだよ。
そうか!荷重たわみ温度が低い樹脂は、ちょっとした温度上昇で硬さが大きく低下してしまうから、高温下で使用するのには向いていないということですね。
その通り!だから、高温環境下で使うなら、荷重たわみ温度が高い樹脂を選んだ方がいいよ。
仮に荷重たわみ温度が70℃の樹脂を選んだ場合、その温度以下であれば問題なく使えると考えてもいいんですか?
それはよくある勘違いだよ。荷重たわみ温度はあくまで「短期的な温度と硬さの関係」だけを見ているので、強度や長期的な劣化、その他の特性については全く考慮されていないからね。
あやうく、この温度以下であれば無条件で安全だと思い込むところでした(汗)。
あと、物性表を見る時にもう一つ注意点があるんだ。荷重たわみ温度の試験には、かける荷重の大きさによって「A法」と「B法」などの測定条件があるんだよ。A法は試験片に1.80 Mpaの応力が生じる大きな荷重、B法は0.45 MPaの小さな荷重をかけるんだ。

大きな荷重(A法)をかけるほうが、低い温度で曲がってしまいそうですね。
そうだね。だから、異なる材料を比較するときは「A法同士」「B法同士」で条件を揃えないと、間違った判断をしてしまうことになるよ。
試験の前提条件(荷重や時間)までしっかり見極めないといけないんですね。勉強になります!
田口先生の
専門家メモ
- 正確には規定たわみ=曲げひずみの増加分が0.2%。
- 結晶性樹脂はA法とB法で温度差が大きくなりやすい。一方、非晶性樹脂はA法とB法の差が小さいことが多い。
- 荷重たわみ温度と同じく短期的な耐熱性を示す指標にビカット軟化温度がある。押込み圧子を使う方法のため試験片の準備が容易で、量産品の品質管理などに利用しやすい。
UL94難燃性(燃焼性)とは?
先生、今度設計する製品で、電源周りに樹脂部品を使う予定なんです。でも、樹脂って基本的に燃えやすいですよね?万が一の火災が心配で…。
とても重要な視点だね。樹脂は主に炭素、水素、酸素からできているから、よく燃えるんだ。工業材料としては大きな欠点だね。だから、樹脂の燃えにくさ(難燃性)を評価する指標がたくさんあるんだよ。
燃えにくさの指標って、一つじゃないんですか?
うん。例えば、燃え続けるのに必要な酸素の割合を見る酸素指数(OI)や、自動車や鉄道、建築などそれぞれの業界で使用される規格など、非常にたくさんあるよ。その中でも最も広く用いられているのが、UL94という燃焼性試験の規格なんだ。
色々な指標がある中で、なぜUL94がよく使われるんですか?
それは、UL94が実際の火災を防ぐ上で、材料自体の難燃性に加えて「火のついた樹脂の滴下物」の影響まで評価する、非常に実践的な試験だからなんだ。

滴下物…ですか?
樹脂が燃える時、ドロドロに溶けて火のついた樹脂がポタポタと落ちることがある。もしこれが、下の基板や配線、ホコリなどに落ちたらどうなると思う?
あっ!そこから火がついて、製品全体が燃えて火事になっちゃいますね!
その通り!だから滴下物の影響までチェックするUL94が広く使われているんだよ。
なるほど!図を見ると、燃やす試験片のすぐ下に綿が置いてありますね!
そう。吊るした試験片を下からバーナーであぶって、自己消火性や滴下物で下の綿が着火するかどうかなどを判定するんだ。
UL94にはどんなグレードがあるんですか?
試験片を水平に燃やす「HB」、より厳しい垂直試験の「V-2」「V-1」「V-0」、さらに上位の「5VB」「5VA」というランクがある。製品によって要求される難燃性は違うけど、一般にV-0以上が一つの目安になることが多いよ。

V-0ですね、しっかり覚えておきます!
フッ素樹脂のように元々燃えにくいものや、難燃剤を配合してV-0をクリアしたグレードなど色々あるから、用途に合わせて選定していくとよいよ。
田口先生の
専門家メモ
- ULとはアメリカの民間規格。
- 自己消火性とは火炎を離すと火が自然に消える性質のこと。
- 燃えやすい樹脂でも、難燃剤を配合することによって、燃えにくくすることができる。そのため、同じ種類の樹脂でも難燃性の異なるグレードが品揃えされている。ただし、難燃剤と樹脂の組合わせによっては、効果が得にくいことがある。また、製品によっては特定の難燃剤が規制されている場合があるため注意が必要。
耐候性とは?
先生、今度屋外で使用する樹脂製品を設計するんですが、注意すべきことはありますか?
屋外環境はプラスチックにとって非常に過酷だからね。耐候性のよい樹脂を選ばないといけないね。
耐候性…? つまり、太陽の光(紫外線)に強いかどうか、ということですか?
樹脂は紫外線で劣化しやすいけど、屋外では他の要因でも劣化が進行するんだ。だから、紫外線だけじゃなく、雨や雪、湿度、温度などの影響も総合的に考慮した「耐候性」という概念で考えるんだよ。
なるほど!光だけでなく、熱や雨水、温度変化などが複合的に絡み合って劣化が進むんですね。
その通り。特に紫外線は「自動酸化反応」という現象を引き起こして、劣化を進行させる。そこに雨水や熱などの影響も加わることで、強度や外観など、色々な特性が低下していくんだ。
怖っ…。じゃあ、その樹脂にどれくらいの耐候性があるか、物性表の何の指標を見ればいいんですか?
実はそこが厄介なところでね。耐候性は引張強さや荷重たわみ温度のように、物性表に明確な数値として載ることはほとんどないんだ。
ええっ? 強度みたいにパッと見で比較できないんですね。じゃあ、どうやって材料選定や評価をすればいいんですか?
一番確実なのは、実際に製品を屋外に置いて変化を見る屋外暴露試験だけど、結果が出るまでに何年もかかってしまう。だから実務では、人工的に過酷な環境を作り出して劣化を早める耐候性試験機を使った促進試験を行うのが一般的なんだ。

試験機の中で、強い光を当てたり水をかけたりするんですね!これなら短時間で「何年ぐらい持つか」がわかりますね!
それが、そう簡単ではないんだよ。試験機で使われる光源(キセノンランプやカーボンアークランプなど)の種類や、設定温度・湿度によって、劣化の進み方は全く変わってくるからね。
試験の条件によって結果が変わってしまうんですか?
そう。「試験機で◯◯時間耐えたから、屋外で◯年持つ」という単純な計算が常に成り立つことは限らないんだよ。表を見てごらん。同じ樹脂でも、光沢が落ちるスピードと、強度が落ちるスピードは違うからね。

ちょっと甘く見ていました。奥が深いです。
だからこそ、自社製品が実際に使われる環境と評価したい特性(外観なのか、強度なのかを明確にして、そのデータを材料メーカーから入手したり、自分たちで測定したりすることが大事だよ。
田口先生の
専門家メモ
- キセノンアークランプは太陽光の分光分布に近い光源で、近年耐候性試験機のグローバル・スタンダードになっている。
- カーボンアークランプを使用した耐候性試験機はサンシャインウェザーメーターと呼ばれる。太陽光の分光分布とは一部異なるものの、日本国内では長く利用されておりデータも膨大であることから、現在でも国内における主流の試験機である。
- 耐候性試験の結果は、試験片の厚みや色、グレード、紫外線吸収剤などの配合剤の有無、試験片の置き方、その他の試験条件等により大きく変動する。
- 耐候性試験のもう一つの難点は、実際に製品がどの程度紫外線に暴露されるかを正確に見積もるのが難しいことだ。砂漠の真ん中であればまだしも、屋根の下、自動車室内、窓ガラス越しなどでは、実際の紫外線の暴露量の計算は複雑になる。
レーダーチャートの見方
耐候性のレーダーチャートは、引張強さのように具体的な数値ではなく、5段階評価の「Rank」として示している。これは、耐候性の試験結果が試験機で使われる光源の種類や、設定温度・湿度などによって、劣化の進み方は変わること、さらには評価項目によっても結果が異なるためである。単一の数値で表すことが難しく、Rankという目安を提示している。
耐アルカリ性とは?
先生、担当している樹脂部品なんですが、アルカリ性の洗浄液に触れる部分があるんです。そもそも「アルカリ」ってどういうものなんでしょうか?
基本からおさらいしよう。アルカリとは、水溶液中で水酸化物イオン(OH⁻)を放出する物質のことで、その水溶液はアルカリ性(塩基性)を示すんだ。アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液などが代表的だね。住宅用洗剤にもアルカリ性のものがあるよ。

なるほど。もしそのアルカリと樹脂の組み合わせが悪かった場合、どうなってしまうんですか?
樹脂の強度が低下したり、もろくなったりするよ。また、白化などの外観不良も透明部品や外観部品ではよく問題になるよ。
それは怖いですね…。特に注意すべき樹脂や現象はあるんですか?
絶対に知っておくべきなのが、エステル結合やアミド結合といった特定の分子構造を持つ樹脂は、アルカリ溶液によって加水分解が急激に進行するということだよ。
加水分解とは何ですか?
水分と反応して分子の鎖が切断される現象だよ。特にポリカーボネート(PC)やPETなどは、アルカリ環境下だとこの加水分解が一気に加速して、ボロボロになってしまうんだ。
PCやPETはよく使う材料だから注意しないと!じゃあ、物性表で耐アルカリ性の指標をチェックすれば安全な材料がわかりますよね?
実は、この指標さえ見ておけば大丈夫というような便利な指標はないんだよ。
ええっ!どうしてですか?
同じ種類のアルカリ性薬品でも濃度やアルカリの強さ(pHの高さ)、温度などの条件によって、樹脂に与える影響が全く違うんだよ。下の表を参考にしてみて。また、アルカリがどのような溶液に混ぜられているかでも影響は違うから注意が必要だね。溶液に溶剤や界面活性剤などが含まれているとソルベントクラックの恐れもあるからね。

濃度や温度、部品にかかっている応力なども影響するんですね…。
だから樹脂を選定する際には、影響を受けるアルカリ性薬品を特定し、実際の使用環境条件を十分に考慮して検証することが重要なんだよ。
物性表の「耐アルカリ性:◯」という文字だけで判断せず、自分の設計条件(温度や応力など)に照らし合わせてしっかりテストします!
田口先生の
専門家メモ
- 樹脂の結晶部分は分子が規則正しく並んでおり薬品が入り込みにくいため、一般的に非晶性プラスチックよりも結晶性プラスチックの方が耐薬品性が高い傾向にある。
- 加水分解を起こすと、分子鎖が切断されるために分子量が低下し、材料特性が低下する。
- pHとは酸、アルカリの度合いを表す0~14の数値。pH7が中性でそれより小さいと酸性、大きいとアルカリ性を示す。
- ひずみ(応力)が生じた状態で薬品類が付着すると、通常の材料強度よりもはるかに小さなひずみ(応力)でクラックが生じる現象をソルベントクラックという。
レーダーチャートの見方
耐アルカリ性のレーダーチャートは、引張強さのように具体的な数値ではなく、5段階評価の「Rank」として示している。これは、アルカリ性の薬品は種類が非常に多く、濃度や温度などの条件も様々であるため、単一の数値で表すことが難しいためである。加水分解しやすい樹脂や耐薬品性に劣る樹脂は低ランクに、PPやPE、大半のスーパーエンジニアリングプラスチックは高ランクに位置づけている。ただし、このRankはあくまで目安である。実際の材料選定では、薬品と樹脂の組合わせに加え、使用環境条件を加味して十分な評価を行うことが重要。
耐酸性とは?
今、食品加工設備の部品を設計しているんですが、お酢や果汁などの「酸」がかかると金属は錆びてしまいますよね。だから樹脂を使おうと思っているんですが、樹脂なら酸に対しては問題ないですよね?
金属のように赤く錆びることはないから安心…と思ったら大間違いだよ。樹脂の中には酸に弱いものがあるんだ。
ええっ!そうなんですですか?お酢や果汁って樹脂容器で売られていることが多いから、大丈夫だと思っていました。そもそも酸ってどういうものなんでしたっけ?
酸とは、水溶液中で水素イオン(H+)を放出する物質のことで、その水溶液は酸性を示すんだ。塩酸などの薬品だけでなく、酸性の食品、さらには酸性雨や火山ガスまで、身の回りに色々な形で存在しているよ。

塩酸や酸性洗剤なども樹脂容器に入っているのをよく見ますよ?
酸性に強い樹脂、弱い樹脂があるからね。酸性薬品の容器などに使われているのは、酸に比較的強い樹脂だよ。
どんな樹脂が酸に強いんですか?
ほとんどのスーパーエンジニアリングプラスチック、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)なんかが酸によく耐えるよ。
逆に、酸に弱い樹脂にはどのようなものがありますか?
機械部品でよく使われるナイロン(PA)系、ポリアセタール(POM)だね。酸によるトラブルの話をよく聞くよ。
なるほど。PAもPOMもよく使うから注意しないと。大事なところはコストが高いけどスーパーエンジニアリングプラスチックにしておこうかな。
スーパーエンジニアリングプラスチックはとても酸に強いけど、硝酸や濃硫酸などの「酸化性の酸」では問題になることがあるから注意が必要だよ。
スーパーエンジニアリングプラスチックだったらどんな薬品でも大丈夫というわけではないんですね。
そうだね。あと、これは酸だけではなく、耐薬品性を考えるときはいつも注意しないといけないんだけど、薬品の影響は酸そのものだけではないんだ。
えっ、どういうことですか?
同じ種類の酸性薬品でも濃度や酸の強さ(pHの低さ)、温度などの条件によって、樹脂に与える影響が全く違うんだよ。下の表を参考にしてみて。また、酸がどのような溶液に混ぜられているかでも影響は違うから注意が必要だね。溶液に溶剤や界面活性剤などが含まれているとソルベントクラックの恐れもあるからね。

あー複雑過ぎる。私には樹脂選定は無理かも・・・。
一つの方法としては、市場実績のある樹脂を選ぶことだね。同じような使用環境条件で使われている製品を調べてみると、だいたい特定の樹脂に集約されているよ。長い歴史の中でたくさんのトラブルを経験しながら特定の樹脂が選ばれてきたんだ。一から全部自分でやろうと思うと大変だよ。
そうかっ!食品加工設備のカタログや特許などで、使われている樹脂を調べてみます。
田口先生の
専門家メモ
- 「酸化性の酸」とは強力な酸化力(相手から電子を奪い取る力)を持つ酸のこと。
- 樹脂の結晶部分は分子が規則正しく並んでおり薬品が入り込みにくいため、一般的に非晶性プラスチックよりも結晶性プラスチックの方が耐薬品性が高い傾向にある。
- pHとは酸、アルカリの度合いを表す0~14の数値。pH7が中性でそれより小さいと酸性、大きいとアルカリ性を示す。
- ひずみ(応力)が生じた状態で薬品類が付着すると、通常の材料強度よりもはるかに小さなひずみ(応力)でクラックが生じる現象をソルベントクラックという。
レーダーチャートの見方
耐酸性のレーダーチャートは、引張強さのように具体的な数値ではなく、5段階評価の「Rank」として示している。これは、酸性の薬品は種類が非常に多く、濃度や温度などの条件も様々であるため、単一の数値で表すことが難しいためである。このRankはあくまで目安として活用し、実際の材料選定では、薬品と樹脂の組合わせに加え、使用環境条件を加味して十分な評価を行う必要がある。
耐溶剤性とは?
先生、今設計している樹脂部品に接着工程があるんですが、製造部から「溶剤」で処理したいけど問題ないか、って問い合わせを受けています。そもそも溶剤って酸やアルカリとは違うんですか?
全く違うものだよ。酸やアルカリが化学反応で樹脂の分子構造を攻撃してくるのに対して、溶剤は「他の物質を溶かす性質を持った液体」のことを指すんだ。
ちょっとイメージがつきにくいのですが、具体的にはどのようなものが溶剤ですか?
広い意味では水も溶剤だけど、製造業で単に溶剤といったら、有機化合物でできた有機溶剤を指すことが多いね。アルコールやアセトン、シンナーなんかが洗浄や脱脂によく使われるよ。
あー、そういえば塗装工程の前処理でアルコールを使ったことがあります。溶剤なんていわずに、アルコールっていってくれればいいのに。
現場によって呼び方は色々だからね。ただ、アルコールといっても種類は多いし、アルコール以外の溶剤を使う可能性もある。樹脂は溶剤でダメージを受けやすいから、何を使うのかしっかり確認した方がいいよ。
はい!確認します。でも、どの溶剤だとダメージを受けやすいのか、見分ける方法はありますか?
一つの指標にSP値(溶解度パラメーター)というのがあるよ。

SP値…ですか?何か難しい話になってきましたね。
難しく考えなくても大丈夫。一般に似ている物質同士は混じり合いやすいといわれているんだけど、性質が似ているかどうかを示す指標の一つなんだ。樹脂と溶剤のSP値が近い場合、溶剤が樹脂内部に浸透して、膨張したり溶けたりしてしまうんだ。結果として寸法が変化したり、強度が落ちたりするよ。
そういえば、以前、透明なポリスチレン(PS)部品をアセトンで拭いたら、表面が白くなってしまったことを思い出しました!
まさにそれだね。PSとアセトンはSP値が比較的近いから、注意しないといけない組合わせだ。
溶剤に関しては、SP値だけを注意しておけばよいですか?
もうひとつ覚えておく必要がある重要な現象があるよ。それがソルベントクラックだよ。

これは、樹脂にひずみ(応力)が生じた状態で、薬品類が付着すると、通常時の材料強度からは考えられないほど小さな力でクラックが生じてしまう現象なんだ。
溶剤以外の薬品ではソルベントクラックは起きないんですか?
ソルベントとは溶剤のことだから、溶剤で発生しやすい現象ではあるよ。でも溶剤以外の油や塗料、洗剤、化粧品などでも起きるんだ。樹脂と溶剤(薬品)の組合わせによって、起きやすさが全然違うから、しっかり確認する必要があるよ。
特に注意しないといけない組合わせはありますか?
ABSやポリカーボネート(PC)のような非晶性樹脂は特に発生しやすいよ。ネジやボルトなどの締結部分、金属部品の圧入部分など、力がかかっている場合は要注意だ。あと、成形時の残留応力をしっかり除去しておかないと、薬品がかかった部分が割れてしまうことがあるよ。
残留応力でも起きるんですね。金型が立ち上がったら、確認してみます。
田口先生の
専門家メモ
- 樹脂と溶剤のSP値が近いことを利用したものが溶剤接着である。
- ソルベントクラックには様々な呼び方がある。例えば、ケミカルクラック、薬品応力割れ、環境応力き裂、ESC(Environmental Stress Cracking)、ソルベントストレスクラックなど。
- ソルベントクラックの生じやすさを示す指標の一つが臨界ひずみである。臨界ひずみは樹脂と薬品類の組合わせにおいて、ソルベントクラックが生じない最大のひずみを示す。例えば、ABSとイソプロピルアルコールでは臨界ひずみが0.4%程度であり、ソルベントクラックが生じやすい組合わせであることが分かる。
レーダーチャートの見方
耐溶剤性のレーダーチャートは、引張強さのように具体的な数値ではなく、5段階評価の「Rank」として示している。これは、溶剤を含む薬品は種類が非常に多く、濃度や温度などの条件も様々であるため、単一の数値で表すことが難しいためである。このRankはあくまで目安として活用し、実際の材料選定では、薬品と樹脂の組合わせに加え、使用環境条件を加味して十分な評価を行う必要がある。
プラスチックの価格
小畠さん、今度の装置は軽量化と窓を多めにつけたいので、プラスチックの割合を増やしたいと考えているのですが、素材カタログを見ると、プラスチックのkg単価って金属材料より高いですね。素材としては安いイメージだったのに。
そうだね。プラスチックのkg単価は高いね。 でも、比重の違いを忘れていないかな。 つまり、プラスチックは金属に比べて圧倒的に軽いからね。
あ、そうですよね。 ってことは、、、どうやって値段を比べよう。
そこは、同じ大きさにして比べるといいね。 イメージしやすいように、一辺10cmの立方体(1000cm³)で素材を単品購入する場合を想定した値段を比べてみよう。 下の「素材と値段を比較した図」を見てごらん。 価格差が大きいから価格は対数スケールにしているよ。

あ、イメージに近くなった! 1000cm³あたりで見ると、鋼材のSS400が2,355円に対して、PPは820円、PVCは1120円なんですね。これなら鋼材より安い樹脂もありますね。
そう。同じ体積で比べると、安い材料もあることが分かるね。 だからkg単価だけで判断しないのが大事なんだよ。
MCナイロン(MCN)もアルミのA5052と比べると候補として検討しやすい価格ですね。
そうだね。軽さや摺動性ならMCナイロン。金属にはない透明性が欲しければPC、というふうに、求める機能とコストが比較しやすいね。
なるほど。でもPEEKはかなり高いですね。これは使い所が限られそうです。
そうだね。でもPEEKのような機能性材料は、代替対象となる金属材料もそれなりに高価なものになる。この場合は青銅のCAC406だね。 気軽に使える材料ではないけれど、例えば、銅合金が不利になるような、アンモニア雰囲気や薬液洗浄まわりのような条件下では有力候補になる。 使用環境、寿命、保全費まで含めたトータルコストで考えるのがポイントだよ。
よく分かりました。単価だけでなく、使用環境も含めて材料を選ぶことが大事なんですね。
小畠先生の
専門家メモ
- プラスチックは特徴が豊富にあるため、オーバースペックにならないように、要求性能上無駄のない材料を選定するのが大切である。そのためにクイックバリューの比較レーダーチャートを活用すると良い。
- プラスチックは金属材量より加工費が安いので、実際に見積を取る事が大切である。そのためにクイックバリューを積極的に活用すると良い。
- プラスチックは性質上、金属材料のような厳しい公差は意味をなさない。個別の公差は、公差等級 IT12 程度を上限にして成立する設計にすると、コストと機能のバランスが良い。また、見積回答も早くなる。
よくある質問
- Q. このガイドは誰が監修していますか?
- A. プラスチック製品設計の専門家である田口宏之氏(技術士・機械部門、博士・情報工学)と、産業機械設計の専門家である小畠祥平氏(技術士・機械部門、一級技能士・機械製図/機械組立仕上げ)の2名が監修しています。
- Q. 材質ごとの物性値を比較するには?
- A. 無料ツール「材質選定レーダーチャート」をご利用ください。樹脂・金属35材質の物性値をレーダーチャートと実数値データ表で比較でき、価格(1辺10cmの立方体あたりの目安)も確認できます。なお、掲載値はスタンダード材料(ナチュラルグレード)の代表値であり、保証値ではありません。
- Q. 材質が決まったら、次は何をすればいいですか?
- A. 即時見積りシステムをご利用ください。図面データ(STEP形式・2D図面)をアップロードすると、価格と納期の見積りをその場で確認できます。



